それは幸運だった

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「え〜、もうちょい一緒に考えようよ〜。ね?」 「ムリ。もう日が沈む」 「そんなぁ……太陽のバカヤロー!」 「恥ずかしいこと叫ばないでよ。てか古い」 全く同感だ。 ハトリは時々オヤジみたいなことを言う。 「ちぇっ。ごめんね、猫さん。もう少し名無しでガマンしてね。きっとゴージャスで可愛くてポワポワな名前つけるから」 また形容詞が変わった。 凄く不安だ。 つる坊を見上げると、私の視線を感じて話しかけてきた。 「そんな目で見ないでよ。僕にはどうしようもないんだ。確かにハトリなら何か突拍子もない名前を考えそうな気がするけど、きっと大丈夫だよ。思い付きで決められるより良いだろ?それじゃあね。僕そろそろ帰るけど、気を落とさずに彼女を信じて待つんだよ。いいね?未来は明るいぞ!」 名前ごときで大袈裟な、と思うかもしれないが、これは重大な問題だ。 なんたって「あいだんてぃてぃー」がかかっているのだから。 ついさっきまでどうでも良くなっていたのだが、つる坊の芝居がかったセリフに感化されたようだ。ただの名前が死活問題に思えてきた。 こうなったらとことん悩んでもらおう。 ミケやらタマとかいう妥協案は忘れてくれ。ゴージャスで可愛くてぷわぷわな名前を期待しているぞ。 「じゃぁホントに帰るからね。ばいばい」 つる坊は縁側でサンダルを履きながら肩越しに手を振った。 見送りのつもりで縁側に行くと彼はそっと私の頭を一撫でした。 ハトリはまだブーブー言っているが本気で引き止める気は無いらしい。 ゴロンと畳に横になってつる坊が帰っていく庭をボーッと眺めていた。 と思ったら突然ガバッと起き上がり庭の向こうを指して叫んだ。 「あれよ!あれだわ!」 帰りかけていたつる坊が驚いて戻ってきた。 「なに?!どうしたの?!」 「決めたわ!この子の名前、あれにする!」 ハトリの指す方を見るとつる坊の言った通りいつの間にか夕方になっていたらしい。 太陽が半分だけ燃えるような色をして揺れていた。 「あれって太陽?でもその子メスみたいだよ」 「ちがうわよ。太陽じゃなくて夕陽!いい名前でしょ?ゆーひ!ゴージャスで可愛くてホカホカって感じ!」 「うん。いい名前。この子のオレンジがかった毛並みにもピッタリだ」
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