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でもね。
ちゃんと分かってる。
本当は、ぼんやりしてたあたしが悪いんだって。
アーヴィンがどこかを痛めたのは、あたしに怪我させないよう庇ったから。
剣が落ちてくることにあたしが気がついて逃げていれば、アーヴィンは痛い思いなんてしなかったの。
……そんなあたし自身への苛立ちを含めて踏まれてる剣はいい迷惑かな。
「ローゼ」
呼ばれて振り向くと、立ち上がったアーヴィンがいつものように穏やかな瞳であたしを見ている。
「私のことはいいよ、ありがとう」
「でも」
「それにもし、この剣が本当に天上から遣わされたものだとしたら、聖剣だという可能性がある」
「聖剣……って、魔物を倒すために神が作った、あの?」
そう、とアーヴィンはうなずく。
「だから、刃を踏むのはやめた方がいい」
「……神様の剣を踏むなんて罰が当たっちゃう?」
「いや。聖剣だとしたらこの刃で魔物を倒している。血でも残っていたらローゼの足が汚れてしまうからね」
【残ってるわけないだろうが!】
「もちろん冗談です」
全然冗談じゃない調子で言って、アーヴィンは床から聖剣を拾い上げる。少し体を庇いながらだったけど、でも大きな怪我は無さそうで、あたしはちょっとだけホッとする。
そのまま机に剣を置いてこっちをちらっと見るから、意図を察したあたしが椅子に戻ると、彼も元の椅子に腰かけた。
「さて。あなたが突然ここに現れた理由をお聞かせ願えますか?」
【……この娘を俺の主にしてやろうと思ったんだ……】
「俺の主? あんた結局なんなのよ?」
【今、この神官が言ったろ】
ふてくされた調子で剣は言う。
【俺は聖剣だ】
「聖剣? ……っていうと、本当にあの聖剣!?」
上ずった声で問いかけると、剣はしばらく沈黙した後に答えた。
【……まあ、そうだな】
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