村娘は初めて違う町の壁を見る

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 レオンが急に黙っちゃったから、てくてくと歩く青空の下、聞こえるのはあたしの靴音と鳥がピーチチチと鳴く声だけ。  のどかだなあなんて思いながら行き過ぎる雲を眺めてたら、風があたしの長い髪をなびかせた。  あたしの髪は瞳と同じで、鮮やかな赤い色をしてる。  滅多にない珍しい色だから褒められることも多いし、実はあたしも自慢に思ってるんだ。  でも下ろしたままの髪は戦闘する時に邪魔だったしなあ。  明日は結い上げて出かけよう。  なんて思いながら、指にくるくると髪を巻きつかせてると、ようやくレオンの声がした。 【……なあ。お前にとっては『運命のナンチャラ』以外に重要なことがないのか?】 「は? 何言ってるの?」  あたしは思わず顔をしかめた。 「当たり前でしょ」  まったく、あたしの人生において『運命の王子様』より重要なことがあったらびっくりだわ。  今回もレオンから返事はすぐに戻らなかった。  やっぱり割と長い、でもさっきより短い時間が経過した後に、大きなため息が聞こえる。 【……そうか。なるほどな】 「何か納得できることがあった?」 【まあな。お前が救いがたいバ……いや。なんでもない】  何かを言いかけたレオンはわざとらしく咳払いをする。 【でーその、なんだ。お前の『運命のナンチャラ』はどういう人物なんだ?】 「ナンチャラじゃなくて王子様よ。えーと、さあ?」  あたしは首をかしげた。 「分かってたら、探す旅になんて出ないわ。一直線に『運命の王子様』のところへ行けばいいだけだもの」 【……確かにな】  呟いたレオンは、続けて問いかけてくる。 【ということは、あの男は違うのか?】 「あの男?」 【村の神官だ】  レオンに言われて、出がけに見たアーヴィンの笑顔が頭に浮かぶ。  笑顔なのに、寂しそうに見えた彼の顔。  ……途端に胸の奥の方がキリキリと痛んだ。
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