タナブゥタの伝説・上

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「あの人も『運命の王子様』じゃなかったかー。でもまだ17人目だし、これからこれから!」  歩くあたしが両手の拳を握ると、レオンが淡々と言葉を返す。 【今の男は52人目だ】 「もうそんなに会ってた?」  そうかー。地道に『運命の王子様』探してて、あたしエライな。  って思ったのに、レオンはため息まじりに言う。 【なあ。こんなつまらないことを何回繰り返すんだ?】 「何回って……やーね、レオン。『運命の王子様』が見つかるまで何回でも、よ。この町で見つからないなら、次の町へ行くだけ!」  力強く返事をしたのに、レオンからの返事は戻らない。  やだやだ。レオンは短気なんだから。 「でも安心して、レオン。今日は必ず『運命の王子様』が見つかるから」 【……その根拠はなんだ】 「それはね。今日が『タナブゥタの日』だからよ!」 【タナボタの日?】 「ちがーう! タナブゥタ!」  昨日、共同浴場で出会った女の子に教えてもらったの。 「あのね。昔、この町に、お裁縫の得意なお嬢様がいらしたんだって」 【ほうほう?】 「お嬢様は使用人の男と恋に落ちるんだけどね、お嬢様の父親は身分違いの恋を良く思わなかったの。父親は恋人を遠くの町へ追いやり、お嬢様が恋人のために縫っていた服を町の川へ捨ててしまったんだって」  町の建物が切れて橋が見える。この橋の下を流れるのがお話に出てくる川、その名もタナブゥタ。 「父親に服を捨てられたと知ったお嬢様は川へ行って必死で探すんだけど、でもその日はあいにくの雨でね。足を滑らせたお嬢様は川に流されて亡くなってしまうの。で、お嬢様に会いたくて町へ戻ってきた恋人も、お嬢様の死を知って川に身を投げてしまったそうよ」  あたしは夕闇迫る空に視線を移す。今日は晴れていたから、藍色の空には星が瞬き始めている。 「以降はお嬢様が川に流された日になると、服を数える『1枚……2枚……』という声の後に『……ああ、服が1枚足りない……』という嘆きが聞こえるようになったんだって。だから川に服を投げてあげると、服が見つかったと喜ぶお嬢様が恋の悩みを叶えてくれるって話よ!」 【……おい。その話、途中から別の話がまざってないか?】 「え? 何もまざってないと思うけど」
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