タナブゥタの伝説・下

3/3
前へ
/47ページ
次へ
 何だろうと思いながら振り返ると、立っていたのはすらりとしたお爺さん。  そしてもうひとり。お爺さんと一緒に来た人物を見て、あたしは動きを止めた。  え? 嘘でしょ? 「お探ししました、お嬢様」 「あらあら、あなたったら。いつまで経っても昔の癖が抜けないんだから」  固まるあたしの横を通って、お婆さんはお爺さんの横に並ぶ。ごくわずかに微笑んだお爺さんは、まるで壊れ物を扱うかのようにそっとお婆さんの手を取った。  それは長い時を一緒に生きてきたことを感じさせる雰囲気で、とても素敵で、そしてちょっぴり眩しく見える光景。 「では、失礼しますね。お嬢さん、神官様」  お婆さんとお爺さんは頭を下げ、そのまま人混みに紛れて見えなくなってしまった。  残されたのは、あたしと、そして、お爺さんと一緒に来た――アーヴィン。 「……どうして、アーヴィンが、ここにいるの?」  ようやく出た声であたしが尋ねると、驚いたようにあたしを見つめていたアーヴィンはふわりと笑う。彼の笑顔があまりにも幸せそうだったから、あたしはドキッとした。  ……変なの。あたしがドキドキする相手は『運命の王子様』だけのはずなのに。 「町の神殿に用があったんだ。だけど村へ帰ろうとした時、さっきのご老人がお連れの方を探しているところに行きあってね。一緒に探していたんだよ」 「……そっか」  なぜかすごく嬉しくなって、あたしは辺りを示して言う。 「ねえ! 今からだともう村へ戻るのは無理でしょ? せっかくだから一緒に露店を回らない?」  あたしの誘いに、アーヴィンは幸せそうな笑顔のままうなずいてくれた。  その後あたしはアーヴィンと一緒に、露店で色々な物を食べた。  それは町についてから初めての、とっても美味しい食事だった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加