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何だろうと思いながら振り返ると、立っていたのはすらりとしたお爺さん。
そしてもうひとり。お爺さんと一緒に来た人物を見て、あたしは動きを止めた。
え? 嘘でしょ?
「お探ししました、お嬢様」
「あらあら、あなたったら。いつまで経っても昔の癖が抜けないんだから」
固まるあたしの横を通って、お婆さんはお爺さんの横に並ぶ。ごくわずかに微笑んだお爺さんは、まるで壊れ物を扱うかのようにそっとお婆さんの手を取った。
それは長い時を一緒に生きてきたことを感じさせる雰囲気で、とても素敵で、そしてちょっぴり眩しく見える光景。
「では、失礼しますね。お嬢さん、神官様」
お婆さんとお爺さんは頭を下げ、そのまま人混みに紛れて見えなくなってしまった。
残されたのは、あたしと、そして、お爺さんと一緒に来た――アーヴィン。
「……どうして、アーヴィンが、ここにいるの?」
ようやく出た声であたしが尋ねると、驚いたようにあたしを見つめていたアーヴィンはふわりと笑う。彼の笑顔があまりにも幸せそうだったから、あたしはドキッとした。
……変なの。あたしがドキドキする相手は『運命の王子様』だけのはずなのに。
「町の神殿に用があったんだ。だけど村へ帰ろうとした時、さっきのご老人がお連れの方を探しているところに行きあってね。一緒に探していたんだよ」
「……そっか」
なぜかすごく嬉しくなって、あたしは辺りを示して言う。
「ねえ! 今からだともう村へ戻るのは無理でしょ? せっかくだから一緒に露店を回らない?」
あたしの誘いに、アーヴィンは幸せそうな笑顔のままうなずいてくれた。
その後あたしはアーヴィンと一緒に、露店で色々な物を食べた。
それは町についてから初めての、とっても美味しい食事だった。
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