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床に座ったあたしが申し訳ない気分で見守っていると、背後からまた男の声がした。
【無駄な怪我をしたもんだな。俺はお前らを傷つけない位置に落ちる予定だったんだぞ】
声には呆れが含まれてる。
ムカムカしながら振り向いたけど、やっぱり誰もいない。あるのは机の上に刺さった剣だけ。
「……まさか剣が喋ってるわけ?」
【まあな。この剣が"俺"だぞ】
「そう。……で? あんた、どっから来たの?」
【テンジョウからに決まってるだろうが】
「ふーん、テンジョウね」
さっきも見上げた高い天井は、今見上げても高い。当たり前か。
「ねえ、アーヴィン。この神殿の天井に剣が隠してあるなんて言い伝えを知ってる?」
「さて。私が見た記録の中に、そのような記述は無かったな」
【馬鹿かお前らは。俺が居たのはテンジョウはテンジョウでももっと高いところ、天の上と書く天上だ】
「分かって言ってるに決まってるでしょ。それに、馬鹿はあんたよ」
【なに?】
あたしはアーヴィンに視線を移した。彼は半身を起こして剣を見てる。
骨が折れたり、血が出たりするような大変な怪我じゃなかったみたい。
ホッとすると同時に、ムカムカとした思いがドカンとした怒りに変わる。
あたしは立ち上がり、足音も荒く剣に近寄った。
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