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 江戸のとある下町には、野良猫が多かった。不思議と猫達は皆太っていた。そんな猫達の中でも、一際大きな体をした、三毛猫が居た。皆は大関と呼んでいる。  大関は毎夜毎夜と、家々を周り、小皿に乗った油を舐めていた。他の猫も油は舐めていたが、大関程ではない。 「油ばかり舐めているから、そんなに大きい太っちょなのかい?」  どの家に行っても、同じ事を言われる。  大関が行かなくなった家には、必ず死人が出ていた。皆餓鬼の様な死体で見つかっていたのだ。 「恐ろしや。恐ろしや。」  誰もが怯えた。きっとこの町は、呪われているのだと。  ここまで読んで、きっと大関が化け猫なのでは?と誰もが思うだろう。如何せん、思い込みはよくない。  大関は油が好きな、ただの太っちょ猫だ。油を舐めた後は、ペロリと舌を出して、満足気に顔を洗う、普通の猫だ。  ならば犯人は?他の猫か?否。一つヒントをやろう。この下町には、井戸も無く、近くに川も無い。週に数回、隣町から水の入った樽を運んで貰っているのだ。だが油はある。猫にやれる程。油は水変わりだったのだ。  油ばかり舐めている町の者達は、腹は風船の様に膨らみ、手足は痩せこけ、悪臭を放った。  猫は鼻が利く。死期の近い人間はすぐに分かる。  さて、一つ疑問だ。この下町にある油は、どこから出て来るのだろうか。答えは簡単。腹の中からだ。  死体が出ると、腹を切り裂き、胃の中に溜まっている油をすくい出していた。何故かこの油、腹に溜まるのだ。とても濃い。そうして再利用し、皆再び油を舐める。猫達も舐める。  水が無く困っていた町人達に、最初に油を持って来たのは、都の坊主だった言う。その坊主も又、餓鬼の様に腹がぽっこりと出ており、がりがりの手足をしていたそうな。  この油は猫達の褒美で、人間達への罰かもしれない。戦ばかりをして来た、人間達の。
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