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暫くしてシシトラが目を覚ますと、辺りは薄暗い世界に囲まれていた。正面の数メートル先へ視線を滑らすと、漆黒の闇が巨大な口を開け待っていた。
「ここはどこだ?」
闇の反対側から微かに流れてくる空気に乗って、水の臭いがした。
導かれるように臭いを辿ったシシトラは、川の畔に出る。川岸には等間隔に筏舟が停泊しており、乗船待ちをする人間の列ができていた。
何隻か先の筏舟の中に爺さまを見つけた。シシトラは急いで走り寄りその舟に飛び乗る。
「シシトラ、お前も来たのか」
「にゃあ」
爺さまはシシトラを抱きかかえ頭を撫でる。舟が動き始めると、何を思ったのか爺さまはシシトラを岸へ放り投げた。
「お前は残れ!」
「にゃにゃ! にゃああぁぁ!」
〈爺さま! どうして!〉
舟は岸を離れていく。水が嫌いなシシトラは、川岸でウロウロと身体を揺らし鳴き声を上げることしか出来なかった。
やがて爺さまを乗せた筏舟が見えなくなると、諦めたシシトラは闇のほうへ歩きだした。
「爺さまは、俺と一緒じゃ厭だったのかな……」
やがて闇の先には、一滴の雫のように小さな光が見えてきた。生命力溢れる光だった。
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