1.冥府の王の力

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1.冥府の王の力

 ぐははは!  魔王城の豪奢な謁見室、壇上の椅子で魔王が笑った。  豪奢なステンドグラスの窓に囲まれ、純金をふんだんに使ったインテリアの数々、そこには一つの世界の頂点にふさわしい壮麗な雰囲気が漂っていた。 「小僧! どうやってここまで来たか分からんが、身の程知らずめ!」  魔王は楽しそうに叫んだ。 「魔王様には申し訳ないんですが、死んでもらいます」  ジーンズを履いて白いカッターシャツに身を包んだ涼真(りょうま)は魔王のただごとではない殺気をまともに受けながらも淡々と返す。 「俺を殺す? ふはははっ! 今までそう言って多くの勇者たちがやってきたが皆、我のひとひねりで死んでいった。小僧、お前、何の装備もなく、どうやって我を倒すつもりか? 我をなめ過ぎだろ」  ふははは! ガハハハ!  周りを囲む、厳つい装備を纏ったリザードマンやタキシードを着こんだ魔人たちも涼真をあざけり笑う。 「よいしょっと!」  涼真は金属球を真っ二つに割った半球を一片ずつ出し、切り口を上にして床にゴトッと置いた。 「何をするつもりだ? 小僧」  怪訝そうな魔王。 「これはデーモン・コア。プルトニウム239の塊ですよ」 「デーモン……、コア……?」 「彩夏ちょっと押さえてて」 「はいよ!」  涼真は、隣でニコニコしている黒髪の美しい女子高生の妹に、デーモン・コアの一つを押さえさせた。 「これはただの金属なんですが、十一キログラムより大きな塊になった瞬間、超臨界に達して核分裂反応を爆発的に起こすんです。やってみましょう」  涼真はそう言うともう一つのデーモン・コアを彩夏が押さえている半球にかぶせ、十数キロ金属球とする。と、同時に、二人は十キロくらい遠くの山の山頂へとワープした。  シュワワワ!  プルトニウムが核分裂反応を起こし、高熱を発しながら中性子を2~3個吐き出す。すると、それに当たった周りのプルトニウムがまた核分裂を起こし、高熱を発しながら中性子を約6個吐き出す。これが一瞬の間に15個→38個→……14億個→35億個→……ほぼ無限個とデーモン・コアの内部で指数関数的に増え、デーモン・コアは天文学的な甚大なエネルギーの塊と化した。  直後、天と地は激烈な閃光に覆われ、魔王城は一瞬にして蒸発した。周囲の山々の木々は一斉に燃え上がり、川は蒸発し、歩いていた魔物は体液が沸騰して次々と爆発していく。まさに地獄絵図だった。 「きゃぁ!」  十キロ離れていてもその熱線と閃光はすさまじく、彩夏は思わず顔を覆う。  プルトニウムの金属球は二十キロトンの核爆弾となり、熾烈(しれつ)なエネルギーの塊と化して全てを焼き尽くす。  白い(まゆ)のような衝撃波が爆心地を中心に音速で広がり、周囲の建物はすべて吹き飛ばされ瓦礫(がれき)の荒野が広がって行く。  衝撃波の中から巨大な灼熱のキノコ雲が立ち上がる。その禍々しい姿を涼真は渋い顔をしながら見ていた。  彩夏は熱線から顔をそむけ、そっとスマホの画面を確認する。そして、 「お兄ちゃん、成功よ! 魔王の魔力は消失したわ。悪は滅びたのよ!」  と、うれしそうに涼真の腕にしがみついた。  ふんわりと立ち上るまだ甘酸っぱいフレッシュな香りに、涼真は少し顔を赤くしながら、 「さ、さすがにあれ喰らって平気な生き物はいないよ」  と、必死に平静を装いながら答えた。 「じゃあ、王様の所へ報告に行きましょ!」  彩夏はまぶしい笑顔で涼真をのぞき込み、上目づかいで言う。 「そ、そうだね。じゃあワープするからしっかりとつかまってて」 「ふふーん、しっかりってこれくらい?」  彩夏はいたずらっ子の顔をして、まだ発育途中の柔らかな胸を涼真の二の腕にグッと押し付けた。 「いや、ちょっと、そんなにしがみつかなくていいよ」 「いいから早く行って……」  彩夏は目を閉じ、涼真の腕に頬よせて言った。 「じゃ、じゃあ行くよ……」  二人は王都の王宮前へとワープした。          ◇  しばらく控室で待たされた後、謁見(えっけん)の間に通される二人。  部屋に入ると、壇上の豪奢な椅子に王様が座り、側近たちが周りに控えていた。魔王城に負けず劣らず立派なインテリアで、壮麗なシャンデリアや天井画には並々ならぬ風格を感じさせられる。  二人がひざまずくと、王様は自慢のヒゲを触りながら涼真に聞く。 「魔王を倒したというのはお主か?」 「はい、先ほど倒してまいりました」 「そうか、そうか、では討伐部位を見せなさい」 「と、討伐部位?」  涼真は想定外の話に驚く。そんな物が必要だったとは。 「魔王を倒したなら魔王の角とかいろいろあるじゃろ?」  涼真は彩夏と顔を見合わせて困惑する。 「あのぉ……。魔王は蒸発させちゃったので何も残ってないんです」 「蒸発? なぜ蒸発なんかするんじゃ?」  すると彩夏が 「こうやって蒸発したんです!」  と、ニコニコしながら空中に記録映像をバッと展開する。そこには漆黒の尖塔が美しい中世ヨーロッパ風の城、魔王城がうっそうと茂る森の小高い丘の上にたたずんでいた。 「おぉ、これが魔王城じゃな。実に禍々(まがまが)しい。この中で魔王を蒸発させたということかの?」  直後、核爆発で映像は激しい閃光を放つ。 「うわぁぁ!」「ひぃ!」「きゃぁ!」  見ていた王様たちはあまりのまぶしさに思わず叫んでしまう。  そして、広がる衝撃波に立ち昇る巨大なキノコ雲。最後には瓦礫の散らばる焼け野原だけが映し出された。  シーンと静まり返る謁見の間。  いまだかつて見たことのない想定外の映像にみんな言葉を失い、ポカンと口を開けたままその煙の立ち昇る瓦礫だらけの丘を見つめていた。 「こんな感じなんで、討伐部位は残念ながら……」  涼真はおずおずと王様に言う。  王様は真ん丸に目を見開いたまま涼真を見て、震えながら言葉を失っている。 「魔王を倒したことに……なりますよね?」 「こ、これは、本当にお主がやったのか?」 「はい。プルトニウムという金属を使ってですね……」 「プルート……冥府(めいふ)の王の力か……。お主どう思う?」  王様はそうつぶやくと側近の方を向いた。  すると、側近は何やら魔道具を取り出して、 「確かに先ほどまでは魔王の気配は途絶えていたのですが、今見ると復活しています。倒しきれていないのかと……」  涼真は驚く。確実に蒸発させたはずなのに復活するとは予想外だった。魔王とは何者なのだろうか? 「テロリストだわ……。いよいよ出てきたのかも……」  彩夏はそう言って、表示させている映像をLIVE映像に変えた。  テロリストとはこの世界に潜伏して悪さを働く、この世界の元管理者(アドミニストレーター)であり、今回のミッションの真のターゲットだった。  画面には瓦礫の中に動く人影が写っている。拡大してみると、それは骸骨の化け物だった。 「えっ!? これが魔王?」  確かによく見ると、頭がい骨の横からは禍々しい黒い角が羊のように渦を巻いて、鋭く光っていた。これはさっき見た魔王に生えていたものと同じに見える。  やがて魔王は空中に跳びあがるとすごい速さで飛び始めた。 「涼ちゃん、こっちに来るつもりみたいよ」  彩夏は眉をひそめ、不安そうに言う。 「く、来るって、ここに?」 「そうみたい。シアン様に連絡するね」  そう言うと彩夏はスマホを取り出してどこかに電話をかけた。  魔王城からここ、王都までは約五〇〇キロ。あの速度で飛んだら一時間もかからずに来てしまう。 「き、君たち、困るじゃないか!」  王様は真っ青になって吠える。 「だ、大丈夫です。迎撃してきます!」  涼真はそう言うと彩夏をつかんでワープした。
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