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Episode8…病の正体は呪い
「こっちだ…」
「はい、アーネスト殿下」
広間を離れアーネストとアリスはアーネストの妹、リズベットの部屋へ向かっている、その間、余りにギクシャクしない様にと気遣ったアーネストが自己紹介と父親の畏まっていた様子、本来の様子等をアリスに聞かせて蟠りと言うかアリス自身の緊張感を緩和する為に話を聞かせ、漸く少しお互いが緊張を緩和した所だ。
「然し、アリスよ…君は本当に12歳なのか?」
「色んな人に聞かれますが、わたくしは正真正銘12歳の少女でございます、殿方はわたくしの身体の成長具合から年齢はもう少し上だと言いますが、はっきりと覚えているのは10歳なのでそれから2年が過ぎていましたからわたくしは12歳なのです」
「10歳以前の記憶がないとはな…不便じゃなかったのか…君は?」
「そう感じたのはホワイトガーデンに保護されてから半年位迄でしたね、あそこは皆んなが優しい方々でしたし年下の子供達からは姉様と慕われていましたので、記憶が無い不安と言うのは緩和されました」
「君には良い場所だったのだな…ホワイトガーデンは」
「そうですね…あそこに保護されてなければ、わたくしは恐らく凡ゆる事に絶望して自ら命を絶っていたかも知れません、本当に救われました」
記憶が無い事に絶望し命すら絶とうとする人間は少なからずいる、自分の存在意義を見つけられないからだ。
暫く歩いて妹、リズベットの部屋迄来るとアーネストはアリスを待機させて部屋の外に立つ兵士と言葉を交わして程なく扉が開かれ、先ずはアーネストが先に入り中にいる母親とベッドで苦しむ妹を見ながら母親に要人を連れて来た事を伝えた。
「助かるのかしら…リズは…」
「父上から聞いての通り確実かは解りませぬ…母上、ですが藁をも縋る思いで彼女を呼んだのです、結果はどうあれ助からないからと彼女を蔑む事だけはしないで下さいませ」
「解っています、でもね…母親としてどうしても愛娘を救って上げたいと思うのです、して、彼女は?」
「扉の外に控えております…アリス!入ってくれ!」
アーネストはそう言うと扉の外に控えるアリスを部屋の中に呼び寄せ、程なくアリスは室内に一歩踏み込んだ、瞬間、アリスは禍々しい空気の流れを肌で感じてリズベットの方を見つめる。
(これは…この禍々しい力、呪いの類…)
一瞬立ち往生したが、気を取り直すと部屋の中に歩を進め、一歩一歩近付く度に禍々しい力が増すのを覚え、ベッドの付近…アーネストとリアナの後ろ迄来ると、まさしくリズベットは呪いの力で覆われていた、この呪い…どうやら当事者本人にのみ有効の様で他には飛び火しないと言う事が解った、となればこの呪いは誰かがリズベット姫に対して施した物であると推察できた。
そんな様子に逸早く反応したアーネストが問う。
「アリス…何か解ったのか?解ったのなら申してみよ」
「……はい、ですが宜しいのですか?可成りショックな事を申し上げ無くてはなりませんので」
「よい!申せ、アリス」
「解りました…アーネスト様、リアナ様、姫殿下には呪いが掛かっている様です」
「呪い…だと…根拠は?」
「今迄薬の類が全く効力を発揮しなかった事から姫殿下は病気では無いと結論付けましたが、わたくしが姫様の様子を見る限り、禍々しい呪いの渦が全身に巻き付いています、然も姫様個人に対しての呪い…これらを総合的に考えると個人に対して強い念を送り苦しめる呪術、グラージと言う物です」
「何だと…」
「大変申し上げるのは心苦しいですが、姫様に対するストーカー行為を行う者の仕業かと推察します」
呪術グラージと言うのは『怨恨』を意味する物、つまりは対象に何らかの【深い恨みを抱えた…若しくは独占欲の強さが生み出した】物であるのだが、それ自体で死に至らしめる程では無い、但し、長く晒されていると精神が衰弱して仕舞う恐れがある。
その解決策は陰陽術の『解呪』の法術が最も適していて、アリスの加護であるワルキューレは法則の理に関係なく、何の術でもオールマイティな力を発揮する事が出来る、魔法なら魔術しか使えないと言う事は全く無く、大凡世界にある武術や術式と言う存在の全てが発動可能となる正にチートな加護である(正式には対応能力があると言う物)
「どうにかなるのか…アリス」
「羊皮紙を一枚と羽ペン、インクは用意出来ますか?」
「容易い事だが…」
「なら、直ぐに用意して下さい、先ずは姫様の身体全体に護符となる保護結界を構築して呪術の流れを断ち、その後は術を使った本人を探し出し【封呪の術法】を打ち込んで根幹から排除します、それと、薬等が効かなかった理由はそれが呪いによる物だからで御座います」
「解った!直ぐに用意させる!」
「はい、お願い致します(その間に『エクステンシブサーチ!』」
エクステンシブサーチは自分のいる位置から広範囲を索敵する魔法の一つ、サーチとエクステンシブサーチでは検索範囲が異なり、近郊ならサーチを使うが、今回の様に相手が離れた場所にいると仮定した場合は更に広範囲の索敵魔法エクステンシブサーチを発動させる、これにより術を使用した人物の残留思念を辿り標的を見つけ出す事が出来る様になる、暫くすると衛兵が注文の品を届け、それがアリスの手元に渡されて早速アリスは羊皮紙の上に魔法陣を認めながら解呪・流脈破断を発動する文字を記入してリズベット姫の心臓辺りにその紙を置き両手を握り目を閉じ「解呪・流脈破断!」…と、唱える。
するとリズベットの身体が黄金色の光に覆われ始め紙の上の魔法陣を通して禍々しい紫の煙が立ち上っては消えて行く、その状況にアーネストも母リアナも困惑し驚愕したが、やがて紫の煙が治ると今度はリズベットの身体を白金色の光のベールが包み込んで吸いこまれる様に消えて行った。
アリスは一つ頷いて二人の後ろに下がり、捕捉解説を加える。
「姫様の身体に巻き付く禍々しい物の力を解呪の陰陽術【流脈破断】で排除したので、時期に目が覚めると思います」
「本当なの?」
「間違いないのだな…アリス」
アーネストとリアナに言われて再度頷くと程無くさっき迄苦悶の表情であったリズベットの身体の震えが止まり、次の瞬間、リズベットはまるで何事も無かったかの様に目を開けて瞼をパチパチと瞬いて目を覚ました。
母親のリアナはその奇跡的な光景を目の当たりにすると咄嗟に娘の手を握る。
「お母様…それにお兄様迄…どうなさいましたの?」
「リズ!目が覚めたのか!」
「リズ!リズ!良かった、心配したのよ!」
母親の涙と兄の柔らかな笑みに目覚めたリズベットは何の事やらと言う顔をしていたようだが、どうやら長く悪夢を見ていた事を打ち明け、その所為で目が覚めなかったと説明する、そして、その視線は兄と母の後ろで畏まる様に控える少女の方向へと向けられて、彼女はゆっくりと立ち上がると少女の近く迄歩いて来てジーッとその少女を見つめ口を開いた。
「貴女は…どなた?」
「わたくしはアリス・マリアベル…辺境伯様のご依頼によりこちらを訪れた者で、非公式ではありますが薬師をしています」
「薬師…で、いらっしゃるの?」
「はい!色々と出来はしますが、わたくしはあくまで薬師で御座います!」
「そうなのですね、わたくしはリズベット・マイヤーです、では貴女が先程わたくしを?」
「はい、滞り無く…それと、姫様、今回呪いを使った人物は姫様にいわくのあるお方の様ですが…覚えはございますか?」
「さぁ…以前、一度婚約破棄をさせて頂いた事は御座いますけど、いわく…と言うならその方位でしょうか」
「ああ…あの男爵家の息子か…親は兎も角、本人は余り良い噂の聞かない人物だったので、父上と相談した結果リズも望まないと言う事で婚約は破棄されたな」
「何でも女癖が悪いとか…そんな男と大切な娘を結婚させるなど出来る訳ないわ」
いわくの相手について説明するアーネストと何時に無く真剣な眼差しの母リアナ、アリスはやはり親であり兄であると改めて認識した。
そしてエクステンシブサーチに一つの何かが引っ掛かった、それは人では無く道具の様な何かで、術の発信元がそこで途絶えている、早速アリスはアーネストにその事を語る。
「殿下…北東の巨木の付近に何やらいわく的な力を発する道具がありそうです、持って来る訳には行かない物の様ですからわたくしが直接確認に行きたいのですが?」
「衛士に案内させよう…ガーランド!アリスの案内を頼みたい、良いか?」
「承知致しました、アリス様…どうぞ!」
「はい…それではアーネスト殿下、リアナ妃、そしてリズベット姫殿下、一度失礼致します」
「うむ…頼んだ」
「はい」
アリスはそう言って一礼するとガーランドの案内で部屋を後にした。
「彼の方はお幾つなのかしら?」
「聞いた話では12歳だそうだ」
「12歳!?全然見えませんが…物凄く見目麗しく妖艶美的な12歳の少女ですわね、兄様」
「私も初見では驚いたよ…まさか12歳とは思わなかったからね…ほら、リズ、まだ目覚めたばかりなのだから無理しないでベッドに戻りなさい、お母様が心配そうな顔をしているだろ?」
「あ、はい…」
リズベットは兄に諭され再びベッドに入った。
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