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Episode9…追跡!元凶を探せ!
「これは…怨差の小瓶ではないですか…」
アリスはガーランドの案内で屋敷の北東に繁る林に到着して目的の巨木の根本に割れた形で放置されていた小瓶を発見した、怨差の小瓶とは念を込めて割る事で呪いが発動する呪いの道具、黒魔術等では使われていて、呪いたい相手への思いを詰め込み割る事で力を発揮する代物である、念自体は然程大きい訳ではないが、持続的に晒されれば死ぬ事は無くとも精神障害は起こさせて仕舞う危ない道具である。
「これが原因…ですか?」
アリスが頷き、ガーランドが手を伸ばして破片を手にしようとする所をアリスが制して話す。
「ガーランドさん、下手に触らない方が良いですよ、私の様に術に対する抵抗力があるならまだしも、一般の人が触れれば呪いの影響を受ける可能性があります」
「なんと!…存外恐ろしい物なのですね」
「まあ、別名不幸の小瓶とも言われていますからね、商店等でも販売はされていません、あるとすれば闇市…と言う場所でしょう、これが、何処で購入されて何処で売られていたのか…そして、誰が手に入れたのか調べる必要はありそうですが、何分抵抗力のない方に触らせる訳には行きませんので、これはわたくしの方で必要な情報を収集し浄化して廃棄しますね」
「お願いします」
アリスは幾つかにバラけた破片を集め一纏めにして封印を施して小さな麻袋に納めた、これを調べれば経緯が晒される為、調べ尽くして報告を上げようと考えたからである。
「それにしても、こんな目立たない場所を知る人物…一体何者でしょうか?」
北東の林は辺境伯家の敷地になっている、林の向こう側に家や屋敷はなく、だとすれば辺境伯家の敷地に入れる様な人物、若しくは隣接する他屋敷から投げ込んだのだろうと予測出来る、だが、この林に隣接する屋敷や家等は何軒かあるので投げ込まれた位置を特定する事は難しい…ならば残留思念を見つけそこから割り出すのが早いのでアリスは辺境伯邸に戻ると空いている部屋はないかとアドミル・マイヤー辺境伯に聞いて物置部屋を借りる事が出来た。
先ずは念の為、部屋の中に結界を施す、可能性は低いとは言え怨差の小瓶の呪いに触れれば何かしら問題になりかねないのであくまで万が一だ、次に残留思念を調べるには一旦封印を解かなければならない、だからこその室内結界である。
「じゃあ、早速やりますか…封印解除」
破片に掛かっていた封印が解かれ極微量ながら込められた念の残留思念が発動、だが、慌てる事なくアリスはそこに掌を翳して残留思念の痕跡を辿る、これは抵抗力の無い一般人には不可能な方法、やがて残留思念から頭の中に映像の様に動くシルエットが入り込み、そのシルエットがこの怨差の小瓶を投げ込んだ位置を表示し、やがて小さいながらも声を拾った。
『手に入らぬならばいっそ…』
声質は若い男性の様だが肝心な姿迄は映らない、ただ、口調から余程リズベットへの思いが強く感じられるが然し、問題はその思いが随分と歪な雰囲気を醸し出している点、何とも変質的な思いが感じられたのである。
(以前、婚約破棄を言い渡された男かしら?)
更に深淵に迫るアリス…すると、今度はそのシルエットの人物の過去らしき思念が見え始めた、内容は単純でその男性と声からしてリズベットであろう女性の声で、会話らしき物が交わされている、流石に断片しか解らなかったが、どうやらその男性はリズベットに優しく接せられて気を良くしている様子、そこから勘違いが始まってる様だった。
画面が切り替わりどうやら何処かの広間の様な場所。
『……今回は縁なき物として、娘との婚約は破棄させてもらうぞ!』
『お待ち下さい!辺境伯様!確かに自分は複数の女性と関係を持ちました、ですが、それも男の解消ではございませんか!それを一方的に破棄とは酷すぎます!』
『愚か者!辺境伯閣下の御前である、慎め!』
『納得が行きません!』
『貴族の子息であるお主の言動がいかん!複数の女性と言うがどれだけ合意しての話だ!悪いがお主の素行の悪さは被害届も出ておるのだ、その様な輩に大事な辺境伯家の娘はやれぬ!早々に立ち去れ!それでも食い下がると言うならば覚悟は出来ておるだろうな…?』
『くっ…』
そこで思念が途切れた。
(成る程、つまりはこれが切っ掛けであの様な騒動を起こしたのですね…流石に被害届が出ている様な男性に姫様は嫁がせる訳ないか…にしても購入先迄は解らなかったわ…つまり、彼は怨差の小瓶を購入した何者かからそれを譲り受け、使用した…と言う事の様ね)
さてさて…どうしたものか…
アリスは悩んだ挙句に一つの答えを出した、それはその男から直接元凶を見つけると言う物、様々な力に適応出来るアリスにとってそれは何でもない事だが、先ずは婚約破棄を告げた辺境伯様に相手を教えて貰う事、次に相手の懐に潜り込み怨差の小瓶の受け渡し人を探る、元凶を突き止めたら辺境伯様とアーネスト殿下に報告、対処をお願いする…と、ここ迄は形式上の話で、真の目的はアリス自身が解らない様に潰して仕舞うと言う事だ、勿論、その部分は告げない、あくまで密かに…銃士隊が来た頃には終わっている感じに持って行って捕縛可能な状況にしておく事である。
先ずは一通り調べ尽くした怨差の小瓶を浄化、破壊すると結界を解いて辺境伯様に経緯を説明する、一通り説明を終えたら再び物置部屋に戻って錬成を用いて寝場所を造り眠りについた。
翌朝。
アリスは早速行動を開始した、昨晩、寝る前に聴いた相手、オリベイル男爵家嫡子、フリオ・オリベイルの住う区域へと足を運ぶ、ただ、あくまで隠密的な調査なので連絡が来る迄は動かないで欲しいとアーネスト・マイヤー殿下には伝えてある。
最初、彼は大丈夫かと心配そうにしていたがアリスは笑顔で問題無い!と答えた、勿論、アリスにとってその程度は問題の生じる物では無いし、仮に見つかったとしても自ら切り抜ける自信はあった。
そんな時だった…
急な眠気に襲われた彼女はあの時に見たドッペルゲンガーの様な少女と夢の中で再対面したのである、見れば今度は容姿迄解る、そう…同じ容姿をしたもう一人の自分は白銀色の同じ長髪で赤い瞳をしていたのである。
『なんか久しぶりね…』
『久しぶりも何も全然貴女が接触してこないんだもの、私の方から貴女に干渉したのよ、もう一人の私』
『もう一人の…私?』
『そうよ、私は貴女と融合した思念体と言うか、神の介入で貴女と融合され、本来なら双子で生まれる筈の私が貴女の中に取り込まれたの、所が神様の悪戯なのか私の記憶と言うのは貴女と共有されていて物心つく前から刻まれたわ、でも…双子じゃ無くて良かった』
『どう言う意味?』
『仮に一緒に産まれてもマリアベル家では双子は禁忌と語り継がれていた…だから、どちらかの未来は無かったわ…貴女は覚えていないの?』
『全然…と言うか貴女の存在すら解らないんだけど、貴女はもう一人の私…なの?』
『酷いわね〜本来なら一緒に産まれる筈だった片割れなんだよ!それに貴女が記憶を失う以前は私が活躍していたんだから、私の苦労を労いなさいなあんたは!』
『そう言われても…私には実感もないし、さっき言ったマリアベル家って何?』
『やーねー…マリアベル家ってか私達の実家はかの偉大なる戦乙女ワルキューレ様の臣下マリアベル家の直系だよ、先祖代々ワルキューレ様の意思を受け継ぐ末裔、前回貴女に渡したじゃないワルキューレ様の加護、あれはそれ以前、私が持っていて、幾千の民を助けて来た、貴方は知らないかも知れないけど【暁の稀人】って私の事だからね、2年前、急に貴女が覚醒して仕舞った事で表には現れなくなったけどさ、貴女も同一人物だと言う事を自覚しなさいな!髪色、瞳の色は違えど私達は二人で一人なのだから』
『言ってる事が壮大過ぎてついていけないわ…要するに貴女と私は同じ人物で私は貴女にもなれて貴女も私になれるって話?』
『そうよ…ターンオーバーを唱えたら貴女と私は入れ替わる事が出来る、但し、私の場合は物理特化、貴女の場合は魔術特化よ、簡単に説明すれば…凡ゆる魔術系に適応範囲が広がるのが貴女で、この世界における物理系に適応範囲が広がるのが私って事、フルスペックと言う術法を使えば私と貴女の特性が両方上がって見た目は白金色の髪と赤と青のオッドアイになって、物理系魔術系両方がハイスペックになる…まあこれは最終手段ね、そしてその姿こそ私達の真なる姿、ワルキューレ様の容姿は赤と青のオッドアイに白金色の髪だから、私達はその力を100%引き出せる様になると言う寸法、だけど、その力は余りに巨大過ぎて、場合によっては国一つを丸々消失出来て仕舞う程の力だから、使い所を間違えたら天災になるわよ』
『わぁお…それってヤバくな〜い?』
『ヤバいわよ…だから私達の能力を制御する為に神様は二つに分けて残したのではないかしら…』
『……フルスペックは禁忌だよね?』
『禁忌中の禁忌よ…』
不思議な現象だった、身体は一つしかないのに頭の中では二人で会話が成立している状況、然もお互いに意思を持って話している、そんな事を口にしても誰も信じるはずは無い、それは本人にしか理解し得ない事だ…そこでアリスの方が疑問をぶつけると、もう一人のアリスは暫し考える様な仕草をしてから話し始めた。
『マリアベル家は一体…?』
『もう…無いわ』
『どう言う事?』
『滅んでしまった…後継者不在だったし、そもそもこの世界にマリアベル家なんてないのよ…私達は5歳になる前にこの世界に来たんだもの…幸いこの世界に来た私達は親切な人に保護された、誰だかは覚えていないけど、少なくとも8歳迄はそこにお世話になっていたし、その頃にはこの世界の常人を遥かに凌駕した力を得ていたからね…それで、貴女が目覚める前の2年間は私が人々を救済して回って、それが【暁の稀人】よ、でも、10歳の時、貴女が覚醒して私は眠りについた…だからそれ以前の記憶も失われていた、そこからの2年間は貴女があのホワイトガーデンに世話になった期間ね』
『つまり、私は逆に貴女が活動していた時期、眠りについていたのね…だから10歳以前の記憶が無いんだ』
『寝ている時の事なんて誰も覚えてないでしょ?だから私もそうだけど10歳から先の今迄の2年間の記憶は無いわ、本当不意に目覚めた感じね』
要約するとこうなる、こちらに5歳位で来てからずっと眠りについていた金髪の私は記憶に無く、逆に銀髪の私は10歳から12歳迄の記憶は無い、目が覚めた切っ掛けは解らないけど、銀髪の私が目覚めたのは現在の12歳になってから…そして私達はこの世界の住民では無くマリアベルと言う家系の人間、そしてマリアベル家はこの世界に飛ばされる前に滅び、私達だけが転生した。
……と言う事になる。
金髪の私は10年位寝ていた…のかも、と思ったら銀髪の私が目覚めた事で記憶が繋がった、8歳迄の私は確かに誰かの世話になっていたんだけれどそれが誰だかは解らなかった、8歳から10歳迄は確かに私は色々な存在と戦っていて、噂で暁の稀人と言われていた、10歳の誕生日を迎える少し前に急に金髪の私は目覚め、反対に銀髪の私の記憶が消えた、どうやら入れ替わる様に私が目を覚ました様だ。
『さて、追跡の開始ね』
『あ!それだ…色んな事が一気に蘇って忘れる所だったわ…犯人は兎も角、闇組織の全滅はしないと』
『まあ、殴り込みに行くならターンオーバーね、物理特化の私が片付けてあげるわ』
『そうね、お願い』
『お安い御用よ』
そこでハッと目が覚めた、本当に不思議だったが、そのおかげで失われた記憶が繋がれて私が私自身を改めて良く理解出来た瞬間である、目覚めて窓の外を見れば然程時は過ぎてる様子はない、少なくとも目覚めて夜でしたと言う事は無い様であった。
(さて、やりますか…)
アリスはそう胸元に手を当てると目を閉じて深呼吸しながら【ターンオーバー】の術を唱える、すると…何と言う事でしょう、髪の色と瞳の色が変わって仕舞ったではありませんか!
何を隠そうそれこそがもう一人の自分であり、かつて暁の稀人と噂された銀髪赤眼の彼女の姿である。
『行くよ…』
『うん、宜しく!』
そして、転身した銀髪赤眼の私は扉では無く窓から飛び降りて着地した。
『あそこ…3階ですが…』
『問題無いわ…』
そして銀髪赤眼の少女は照り付ける陽射しの中、オリベイル男爵家を目指して高速で移動したのである。
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