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Episode10…暁の稀人【あかつきのまれびと】
「効果が絶たれました」
「何だと!そんな筈は…あれだけ周到な恨み辛みの念を閉じ込めたと言うのに…どーゆー事か!ベリル!」
「強力な解呪の力が働き、一瞬で消えた様です」
「そんな馬鹿な…あの呪いを解ける何者かがいると言うのか!」
「残念ながらその様です…」
「もう一度アレを…私の求婚を破断にした事を後悔させてやるのだ!アレを!アレをよこせ!ベリル!!」
「申し訳御座いませんが、あの瓶の力ではもう、あの強力な結界には歯が立ちませぬ…いっその事、奪い取って仕舞えは宜しいのでは?」
「誘拐しろ…と言うのか?」
「はい…奪い取り人質として婚姻を強制的に承諾させれば宜しいかと…」
「そうか…無理矢理奪い取り、婚姻を認めねば姫を殺すとでも言えば良いか」
二人は顔を見合わせて不敵に笑い合う。
黒衣を纏った男はベリルと言うらしい、詳しい出自は不明で名乗る名前も本物かは解らない、万が一に備えて偽名を使うのは闇の世界では通説、だからベリルと言う男が本当にベリルかは解らないのだ、そんなベリルと顔を見合わせて不敵に笑う男は辺境伯閣下から聞いたフリオ・オリベイルで間違いはないだろう、離れた位置から二人の様子を窺うのは先程ターンオーバーの術を使い入れ替わった銀髪赤眼のアリス。
『もっと近付かなくて良いの?』
『大丈夫よ、貴女が使う鑑定の術と同じ様に私には千里眼と言う術がある、使えば1km先でも相手の様子や会話が手に取るように解るの、物理特化だからね、私が使う術と言うのはその物理特化を活かす為の術が多い、貴女の時とは反対の力が強まる訳よ』
『成る程ね…それで?』
『黒衣の男はベリルと言う本名か解らない男で、煌びやかな衣装の方が問題のフリオ・オリベイルよ、やだ、あの男生意気に黒魔術の素養があるわね、フリオをコントロールしてる感じね…て事はあの怨差の小瓶はあの男からフリオの手に渡った物ね、あのベリルと言う黒衣の男は極めて怪しい…末端だとは思うけど、アレは懸念する闇市の組織と繋がってそうよ』
『泳がす?』
『その前に魔光印を打ち込みましょう、奴の足取りを追う為にも必要』
『任せる!』
金髪の…今は意識体となっている方のアリスは実体化している銀髪赤眼の自分に任せる、にしても違和感が否めない、実体は一つなのに意識は二つ、これは何とも言えない感覚である、ある意味一人演劇を披露している様だからだ。
銀髪赤眼のアリスは任されて一人屋敷に近付いて行き息を潜める、その間も千里眼で相手の様子を窺いながら魔光印を打ち込むタイミングを測っている。
粘る事30分程、ベリルが動いた。
(チャンス到来ね…あ、あの木の上が良いわ)
銀髪赤眼のアリスはぐるりと周りを見渡して良さげな大木の方へ移動してその木に飛び乗る、この木は男爵家が所有する物で高さが10m程あるが、それを難なく飛び上がって足場の良い場所に着地出来るのは物理特化による身体能力が通常二倍以上に跳ね上がる特性。
よって跳躍力だけで10m程度の高さに簡単に登れて仕舞うのである。
金髪碧眼のアリスからすれば超人の域だ。
『それにしても…アリス?』
『なーに、アリス?』
『なんか紛らわしいわね』
『そうね、私も貴女もアリスだからね〜あ!そうだ、何ならあだ名でも付ける…レッドとブルーみたいな』
『瞳の色?』
『私と貴女の違いをあだ名にするの…どう?』
『なら、今の貴女は銀髪赤眼だから【レッド】で私は金髪碧眼だから【ブルー】ね』
『そーしましょ!ね!ブルー?』
『解ったわ!レッド!』
その時、二人はそうやって使い分ける事を決めた。
丁度この位置は玄関に近い、レッドは掌を広げて目を閉じるとハンドガンの様な物を作り出した、これは魔法銃と命名した魔光印用の弾丸を撃ち出す物、レッドはそこに魔光印用の弾丸を詰める、とは言えこの弾丸は別に鉛玉では無くて魔力を固めた物だ、この内部に魔光印の術を込めた弾をセットして標的を狙う。
命中するとこれは身体に溶け込んで同化し、魔光印の放つ光だけが残る仕組み、正体不明でその者の行き先を突き止めるには有効な方法で、更にこの魔光印はそれを使った者にしか解らない、例え使える者が居たとしてもそれは個人魔法の類の為、それを見る事は使用者に触れて力を借りなければ不可能である。
故に、これをレッドが使用した場合、アリスのみがそれを解り、追う事が出来る物だ。
ベリルと言う男が出て来た、レッドは男が背中を向けた瞬間に魔光印を撃ち込んだ、一瞬ベリルは振り返るが痛みも何もないので特に気にする事なく去って行く、然しその身体にはしっかりとアリスの放った魔光印の光が残されたのである。
(これでよし!後はエクステンシブサーチを掛ければ男の痕跡を追える)
『終わったの、レッド?』
『ええ…筒が無く、ブルーも解るでしょ?』
『うん、解る…後はフリオの方、どうしようか?』
『眠って貰いましょうか…一先ず、3日位』
『成る程!それなら今度は私の番ね』
『そうね…任せるわ、でも行けるのブルー?』
『重力軽減魔法を使うから大丈夫』
『了解…まあ、あの程度の男に負ける程ブルーも貧弱じゃないか…じゃあ【ターンオーバー】』
すると今度は金髪碧眼のアリスに変身、直様ブルーは重力軽減魔法リグラビィを唱えて重力の力を半減させて木から飛び降りた。
フワリと着地する。
『やるじゃん!ブルー』
『ありがとう…じゃあ』
ご対面と行きますか…変態さんと。
そう言うとアリスは「テレポ!」と唱え誰に気付かれる事もなくフリオの前に姿を現した。
「誰だ!貴様は?」
「わたくしですか?貴女に名乗る名前はございません、ただ、貴方を暫し夢の世界へご案内します、大丈夫怖くありませんよ…ウフフフッ」
「私をフリオ・オリベイルと知っての狼藉か!」
「知りませんよ?わたくしは辺境伯様から場所を聞いて来たまでです、貴方の名前なんて知る必要ございませんのでお構いなく」
そして、フリオが剣を取りに行こうとした所にアリスのデッドオブスリープの術が炸裂しフリオは呆気なくベッドに倒れ込んだ。
デッドオブスリープは深い眠りに落とす魔法、これを受けた者はその日から1週間程深い眠りについてしまう、序でにアリスは善の法と言う術を眠るフリオに施しておく、これは目が覚めた時に嘘が吐けなくなる物、自白剤を打ち込まれた様な物である。
だから、目が覚めた時、フリオは隠し事が出来ず全て暴露してしまうと言う寸法だ。
『さて、次行こうか!レッド』
『なんか忙しいけど今度は私の番ね…然し、アレね…使い分けるの大変だわ、いっそフルスペックしちゃいましょうか?制御出来れば問題無いし』
『解らない事をしないの!暴走したらヤバいでしょ?もう少し考えましょうよ、レッド』
『まあ、そうね…』
『じゃあ…ターンオーバー!』
すると再びアリスは銀髪赤眼に変わる、そしてアリスは黒衣の男の消息を追ったのだった。
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