Episode1…アリス・マリアベル

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Episode1…アリス・マリアベル

愚かな生贄が彼女の前に現れたのは丁度仕上げた薬をサンザ薬品店に納品する少し前の事である、当のアリスは鼻歌混じりにスキップしながら丘の麓の町アラッソに来ていた。 「さてと…今回の納品はヒールポーション100個と粉薬50包、粒剤40セットに状態異常回復のA・M・P【アンメディカルポーション】20セットよね…ムフフ、金貨一枚位になれば良いな!」 等と売れた先の利益に妄想をしながら街を闊歩して居た所で四人組のガタイの良い大人に道を塞がれた、アリスは然し、まるで臆する事なく括れた腰に両手を当てて睨み上げながら仁王立ちに構えるとその大男達に対して言い放つ。 「オジサン方、そこ退いてくれませんか?邪魔なんですけど?」 見た目は偉い強そうな男達、然し、その光景を見かけた街の人々は怯える顔では無くこれから起きるであろう恐怖の惨劇に対して青ざめて居た、普通なら少女を憐れむ様な目で見て見ぬふりを決め込む所だが、この場合の憐れむ目と言うのはその少女に無謀にも挑もうと不敵に笑う男達に…である。 「オジサンだと?嬢ちゃん舐めてねーか?」 「は?そんな汚い顔…頼まれても舐めないわよ、てか早く退いてくれる?オ・ジ・サ・マ方、邪魔!」 「馬鹿か嬢ちゃん、オレ達に勝てるとでも?」 カラカラと笑い飛ばす大男四人組、然し、次の瞬間彼等達に悲劇が襲う事になる。 「しつこいなら押し通るね!邪魔だし」 アリスがニヤリと不敵な笑みを向けた瞬間、彼等の視界からアリスが消えた、そして一人、また一人と屈強に見えた男達が股間を抑えて泡を吹いて倒れて行く…そう、アリスは立ち塞がる大男達の股間部に鋭い蹴りを打ち込んでいた、男性なら誰でも解るだろう…そこは少しの力を加えても転げ回る程に痛い、そこにアリスの蹴りが鋭く打ち込まれればどうなるか…もうお解りだろう。 そこに見えるの物が死線であると言う事を…。 バタバタと3人が其々に股間に手を当て白目を剥き出して同じ様な格好で泡を吹いて倒れた、野次馬に来て居た者…特に若者から年寄り迄の男子はこの痛みを共感して青ざめ、更に真っ青に変わっている。 更にアリスはなんて事ないとばかりにまだ成長期途中の中途半端なサイズである胸を張り、得意げだ。 「まだやりますか?」 アリスは不敵に笑い、おまけに籠を抱える掌とは逆の掌でこれ見よがしに何処からか投げ込まれた林檎の実を手に受けとってグシャリと潰して見せ付ける、その光景は男子なら理解するだろうそれは自分の物が潰されて使用不能になる事を伝える…当然、周りの男子は更に青くなりそれとなくその部分を守る様な格好となり、それ迄強気だった大男の顔もこの世の者じゃ無いとばかりに怯え始めて退散しようとする…が、そこにとどめとばかりにアリスの飛び膝蹴りが延髄に決まってノックダウンとあいなった、着地と同時に手を叩いて『ふぅ…』と溜息を零すアリス。 「全く…外見だけで人を判断する物ではありませんよ、もし私が剣を使って居たら真っ二つです、それでは…ご機嫌様」 アリスは乱れた長い金髪の髪を一旦荷物を下ろして両手で整えると、再び荷物を腕に掛け、何も無かった様にその場を後にして目的のサンザ薬品店に向かって歩き出した…野次馬もこのひと騒動が終われば蜘蛛の子を散らす様に去り、そこには失神し気絶した四人の大男達の(むくろ)だけが転がっていた。 「こんばんわ!サンザさん!ご注文の品物を持って来ました!」 「おお!アリスちゃんご苦労様」 現場から5分程歩けばそこには【サンザ薬品店】と書かれた看板が掲げられている、その入口に掛かった暖色系橙の暖簾を上げれば店内のカウンター越しで薬の調合士をしている店主、サンザさんが忙しく動いている、そもそもこのアラッソの町には町医者が二人、サンザさんの様な薬師も三人しか居ないし入院出来る様な施設もこの町には無く、重傷者が出ればここから半日掛けて向かった先の隣街ダンドリッヒに行かなければならない、故に初期の行動が注視され、医者や薬師と言う人々はその先駆者としての役目を果たしている、アリスに関しては現在どの薬師にも師事して居ない非公式の薬師てあるが、その実力は周辺3町村の長が満場一致で認めている為、こうした納品や売買も特例で許可されている。 【年寄りの知恵】なんて物も存在するが、これはあくまでも参考程度で、それと比べればアリスの薬学知識の方が遥かに高い、サンザもその能力に惚れて彼女との商いをして居た。 「出来栄えはどうよ、アリス?」 「サンザさん、私がそんなヤバいミスすると思う?」 「まあ…それはないか…んで、届けて貰った薬の代金だが金貨1枚と大銅貨7枚だが、それで良いか?」 「全然大丈夫だよ、沢山貰っても良いけど、そこは私とサンザさんのよしみと言う事で良くない?」 「だな…んじゃ、来月の納品待ってるよ、アリス」 「はいはーい了解!」 適当に会話してアリスが店を出ると、さっき転がっていた大男達が辺境伯家の銃士隊に連行されて行く姿を通りから見送った、勿論、四人ともアリスを見るや否や恐怖の顔色に変わってブルブルと震えて居た。 「アリス、お前なぁ…流石にちと動揺したぞ?まさか股間を蹴り抜くとかさぁ…ちっとは加減してやれよ」 手を振って見送るアリスの所に小綺麗な制服を着た一人の衛兵が近付いてそう小声で呟く、アリスはそれに対して何の事でしょう?的な顔を向けると同時にクスクスと可愛らしい笑顔を返した。 「オルガ!隊列を乱すな!馬鹿者!」 「あ!すいません、銃士長!」 彼はオルガ・ホワイトと言う見習い衛士の一人で、実を言えば去年ホワイトガーデンを退所して銃士隊になるべく町を離れた元孤児の一人、アリスとは剣術訓練をしていて偶々訪れた辺境伯家の衛士長にその腕を見込まれてスカウトされた少年だ、今は衛士の仕事を覚えるべく毎日の訓練とこうした衛士の仕事に参加してはそれを覚えている最中である。 「がんばれ〜っ!オルガ兄様〜っ!」 アリスがそう声を掛けるとオルガは後ろ手に手を上げて答え足速に隊列へ復帰して行った。 (頑張ってるなぁ〜オルガ兄様は…私も頑張らないとならないわね) アリスはそう呟き、頑張るオルガの後ろ姿を見送るとまるで自分の事の様に嬉しくなって帰りも上機嫌のまま、生活拠点でもあるホワイトガーデンに帰宅した。
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