Episode2…孤児院と教会

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Episode2…孤児院と教会

「おはようございます!アルマ先生」 「おはよう!アリス…昨日は何と言うか大変な目に遭ったとか…今朝教会に訪れたバロン夫妻が言って居たけれど怪我とかしてない?」 「はい、先生…とは言え悪いのは彼方ですのよ、退いてと何度か言ったのに聞いてくれませんでしたし、挙句には私を暴漢しようとする様な怖〜い感じで…だからあれは正当防衛ですわ」 昨日の惨状は聞いていた、アリスがした事は別に咎める話でもないが結果からしてアルマは思うのだ…その人達の今後の生活を…女神官にとって異性との交遊は厳しく制限されてはいるが知識が皆無と言う訳ではなく、神官同士の婚姻は許可されている事からそう言う(大人の情事)場面も無いとは言えない。 基本的に神官位以上を持つ信徒は婚前交渉は御法度とされている、だから女神官や神官は結婚して初めてと言う事が多い、その為に知識としては学んでいるので、悪いとは言え彼等がそう言う事が出来なくなる事を危惧して仕舞うのはアルマの思う所だ。 「それにしても…加減したのですか?」 「勿論、殺しては居ません…ただ、深く強く反省を促してあげただけです」 「それなら良いけれども…」 そう言いながらも何処か考えて仕舞う…果たしてアリスの手加減とはどの程度の物なのか…っと。そもそも今の彼女が常人では無い事はアルマも良く知っている、彼女が加減したとしてそうそう無事とも断言出来ない所が悩み所である。 「それでは先生、孤児院の方に戻りますね、弟や妹達の面倒も見ないといけませんし、私自身も作業がありますので…」 「解りました」 アリスは礼拝堂にいるアルマにそう告げると併設された孤児院の方に出る扉を抜ける、最初に扉を潜ると先ずは水回りが視界に飛び込んで来る。ここではアリスよりも年上…13歳〜14歳迄のお姉様方が忙しく食事の支度に翻弄していた、台所は女の城と言わんばかりにこの厨房の方は男子禁制だ、アリスはこんな場面では余計な事を口にしない、邪魔にならない様に気を付けているからだ、その先の戸口を越えると今度は中庭が広がっていて庭の一画には普段、孤児達が口にする食材を育てる畑が広がる、その畑で労働するのはアリスから見てお兄様達と幼くとも逞しい弟達である。 「あ!アリス姉様、お帰り〜っ!!」 中庭に現れたアリスを真っ先に見つけたのはこの孤児院では年少組の5歳〜7歳位の子供達だ、力がまだ無いこの年齢の子達は畑に伸びる雑草なんかを軍手で引っこ抜いたりして年長組の手伝いに尽力する、まぁ…この子達にとってそれは遊びの延長の様な物で、早急を要する訳でもないので、中庭にアリスの姿を見つけるとこぞって彼女の所に集まって来るのだが。 「はいはい…ただいま〜っ!先ずは手を洗ってらっしゃい皆んな、それからよ!」 駆け寄って来た年少組の男の子は4人。 その他にも女の子が2人いて、彼女達もまた、室内の窓越しからアリスを見つけるとそれ迄遊んで居た物を放置して迄駆け寄って来る、此処でのアリスは年少組の少年少女から可成り好意的な存在に扱われている様だ。 そんな孤児院には男女合わせると5歳〜14歳迄の子供達が全部で15人いて、先生と呼ばれる女神官アルマを含め修道女が5人いる、その修道女や女神官アルマが執務で留守の場合等は大概彼女が年少組の男女6人の面倒を率先して一人で見たりしながら過ごしている。 年上の姉様達や8歳以上の男の子は畑仕事をしたり最年長組の男の子達の狩りや採取なんかを男の子が、同じく8歳以上の女の子は最年長組の姉様の手伝いや孤児の生活する部屋の掃除、教会内の清掃業務等、誰からともなく手伝う、アリスがフリーなのは孤児院に生活してもあくまで彼女はお客様扱いである事と非公式の薬師等を生業としている為で、皆んなと同じ普通の孤児だったなら彼等、彼女等と同じ様に過ごして居ただろう。 最も自分のプライベートは自分でやると言う主義から彼女が寝泊まりしている離れの小屋に近い部屋の掃除等は一切孤児に任せては居ない、何故ならそこには薬に使う材料があり、材料の中には口にすると身体に悪影響を及ぼす物もある為である、だから普段からアリス自身が不用意に入らない様にと子供達に注意を促している。 子供達と戯れる時間、男の子には枝を使ったチャンバラの様な剣術訓練に加え女の子と一緒に薬学知識の基礎中の基礎を教えたりしていた。 それは万が一の怪我や毒等と言った症例があった場合の応急処置と言う観点から教えている事で、内容は子供でも出来そうな手当用の【薬】として使える傷薬や毒消し薬、打ち身や捻挫の場合に使う湿布剤に成り得る植物や種子等…普段の生活で当たり前に起こり得る事態に慌てたり焦ったりしない為の予防線。 勿論、手を加えずにそのまま使える物を教えている。 そんな事をやっていればあっという間に時間が過ぎて行き、やがて日が沈み辺りが夜の闇に覆われる頃になると子供達は夕食の時間を迎えるので、話を打ち切って子供達を食堂の方に向かわせ、走り去って行くのを確認すると、アリスは食堂とは反対の場所にある自室と言う程で借りている部屋に戻って行った。 「さて…アロマオイルでも炊いてリラックスね…パープリアンの花とプリンセスローズでしょ、後はミントリアの葉を油に浸して…ちょっとズルして…」 中瓶位のガラス瓶にそれ等を入れてパーミル油と言う油を注ぎ入れ蓋を閉める、準備が出来たらポーションを生成する感覚と同じ様に掌を翳して「生成!」と唱えたと同時に中瓶の中身が色を変え始める、それは次第に薄い紫色の液体へと変化した。 「完成ね…後は蝋で固めた芯を入れて『リトルファイアー』これでよし」 真の先に火が灯り、少しずつ生成したアロマの香りがしてくる、このアロマオイルの効果はリラックス、1日の疲れを癒やし明日の活力を養う香り、アリスは食事に呼ばれる迄の時間をこうしてのんびりしながら、同時に素材の状況を見極め足りない物はないかと確認する、一通りの在庫を確認し終えると今度は本棚から小説本を取り出して読み耽る。 コンコン! このノックが響くと今度は食事の時間となる、アリスは扉を開けた。 「アリス、時間よ!食堂に来て!」 「シーナ姉様…はい!今行きますの!」 シーナはこの孤児院に住う女の子孤児の最年長組で14歳、アリスより二つしか変わらないのにその動向と言うのは可成り大人である、15歳で成人を迎えるこの国では14歳と言えばそれなりに大人の女性の風格と言う物が彼方此方から出て来る、青い髪をお団子に纏め、翡翠の様な目を持つシーナは正にその典型的な女性、アリスも何処か彼女の前では裾を正して仕舞う。 因みにこの孤児院の食事時間と言うのは5歳〜10歳迄の子が時間にして18時〜19時、11歳〜14歳迄の年長組と先生方は19時〜20時と言う交代制、その後30分ほど休憩を挟んでから10歳迄の子供達が先に男女に分かれて入浴する。 勿論、下の子は上の子がお世話すると言う事となっている、最も、流石に10歳も超えて来れば自分で自分の事は出来るので先ずは下の子を先に終わらせてから自分達の番と言うのが暗黙の了解で、概ねそんな感じで入浴時間は過ぎて行く、それ以降は外出禁止、夜は周辺の森等には危険な獣達も生息しているので、小さな子達は特に厳しく制限されていた。 「そう言えば肉類がだいぶ不足して来たなぁ〜…アリス、もし良かったら頼めるかしら?」 「肉類…って事は狩りをお願いと?」 「だって、貴女しか出来ないじゃないのよ、オルガ兄様は退所なされたし、フーゴはまだまだ無理でしょ?」 「そうねぇ…フーゴ兄様は少し臆病だからまだまだ無理だと思う…まあ、片手間程度だから明日にでも何匹か手に入れて加工して姉様に渡すわ、それで良い?」 「ええ…勿論よ、でも、加工とか嫌じゃないの?」 「別に平気よ、私には調合と生成と言う便利な代物がある物、捕まえて仕舞えば後はどうにでもなるわ、姉様だって平気でしょ?」 「まあね…食べる為だもの、一々腰が引けてはいられないわ!女は逞しいものよ!」 「実にシーナ姉様らしいわね…」 食堂に入る迄の僅かな時間だけど、アリスはシーナとあれこれ会話しながら歩き食堂に入った。 食堂には最年長組女子のシーナ姉様と最年長組男子のマリク兄様、一歳年上のフーゴ兄様、同年齢の女子アディとレミア、男子のベリーが其々自分の席に座っていて、更に少し遅れて来た先生方が席に座るとシーナ姉様やアディ、レミアそして私も含めた4人で準備に掛かる、配膳の順番も決まりではないが、筆頭の女神官アルマ先生に始まり他の先生方、そして最年長の二人、一歳年上の兄様達、アディ、レミア、ベリーと配られ私は最後である、意味は無いけれど私は孤児と言う扱いではなくお客様の扱いでこうなっている為、最も暖かい状態のスープ等が出される。 それから簡単なお祈りの後に食事が始まるのだ。 食事が終わる頃、私は女神官アルマ先生に残る様申し付けられ今そこで、対面に座ってアディの淹れてくれたハーブティーを口にしている、こう言う場面に置いて私は必ず仕事を依頼される、これ迄もこの力に目覚めて以来大体お決まり。 ハーブティーを半分程飲んだ所でアルマ先生から口を開きここに残って貰った件の話が始まった。 「実は、ご領主様から手紙が届きました」 「手紙ですか…何と?」 「何でもご領主様の娘さんが原因不明の熱で伏せって居るらしく、お医者様のサーウッドさんから貴女の事を聞いて手紙を認めた様です」 「あ!…察しました、薬の生成ですよね?アルマ先生」 「ええ…サンザの薬師や他の薬師、医師に頼まれても原因が一切解らず、藁にも縋る思いで貴女に依頼が来たのです、アリスはワルキューレ様の威光を受け継いだ人、何か突破口があるのではないかと…」 「つまりはわたくしに辺境伯邸迄参上願いたい…そう言う事なのですね?先生」 「そうですが…最初はどうかとも思ったのです、幾らワルキューレ様の威光と言えども果たしてその様な力があるのだろうか…と、然し、聖教協会に所属する身としては看過出来ないのが現状で…」 「運営資金の半分以上は辺境伯様からの有志ですものね確かに断るには理由がありません」 「ええ…だから、心苦しいのですが、アリスに任せようと思ったのです…行ってくれますか?」 行きたくない…とは言えない、何故なら自分は客人として待遇をされている身であり、辺境伯様はこのホワイトガーデンに真意で資金提供をしてくれている大事な人なので、一介のお世話になってる私が拒否すると言う事はホワイトガーデンのみならず、この辺りを管轄している貴族の人、そして辺境伯様に迄迷惑が及ぶ事になる、だから迷う訳にも行かなかった。 「解りました、お約束頂いた日に辺境伯邸に伺おうと思います…ですが、必ずしも私がお嬢様の病いを治せるとは限りません、先ずはその事をご返答されてからお窺いする日を改めてお願いします、私は一応…可能な限りの用意をしておきますね」 「助かります…貴女にばかり頼って申し訳ない」 「いえ、面倒を見て下さる先生方に対する私からのお礼の気持ちですから気になさらないで下さい」 「ありがとう…アリス」 最後はアリスが笑みを浮かべて話は終わり、他の姉様方は入浴を済ませてたらしく寝具を来て扉の向こう側を横切って行った、アリスは席を立つと部屋を後にして自分の離れに戻り、その日の疲れを癒すが如く部屋に自ら設置したシャワールームで汗を流した。
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