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Episode4…バレットとミラ、そして…暁の稀人の噂
「彼奴…ちゃんと迎えに行けたかな?」
「大丈夫でしょ、第一オルガの世話になっていた実家みたいな物だもの、少なくとも道を間違えると言う事はないと思うわよ、バレットは心配し過ぎ」
「大事な後輩を心配しない先輩なんていないぞ、そうそうは」
「またまた…あんたはあれでしょ?オルガの知り合いの女の子、12歳の薬師のアリスちゃんじゃないの?」
「ば…馬鹿を言うなミラ!そんなやましい気持ちなんてねーぞ、俺は」
「まぁ…そーゆー事にしといてあげるわよ」
アラッソの町の酒場では町人に混じり飲み物と軽食を食べる男女がいた。
一人は辺境伯家銃士隊、第三師団副師団長のミラ・ウォルツ、赤髪のショートヘアに青い瞳で可成り胸のサイズがあるスタイルの良い女性、もう一人は第三師団の団員でオルガの先輩指導員を務めるバレット・ルナーク、金髪ショートに黒っぽい瞳で筋骨隆々でガタイの良い男性だ。
二人がここにいるのは本人達がホワイトガーデンに行った事が無いと言う事とアリスの迎えを元実家の様なホワイトガーデン出身である慣れない道を無闇に行くよりも長く慣れ親しんでいたオルガに委託して酒場で待つ事にした為である。
本来は酒場なのでお酒を飲みたいところだが、生憎今回の件は辺境伯様からの正式な依頼の為、今は勤務中と言う事で控えている、それにオルガが戻れば直ぐ様辺境伯領の領都・ルードへ向かう事になっているので、呑気に酒などを酌み交わす訳にも行かないのがこの二人、周りの楽しげな雰囲気に少し羨ましがりながらも食堂の様な店は此処一軒しか見当たらないので已む無く来ていた。
「……然し、地方は平和だな」
「それを言うなよミラ…悲しくなる」
そう、この国は地方、都含め至って現在は平和だ、この何十年かは他国との戦争も無く、小競り合いですら起きなくて久しい、本来銃士隊は外敵に対する国防が仕事だが、これだけの長い期間そう言う事が起きていない事から彼等の仕事と言えば猛獣駆除やら治安の安定、要人警護等が主な任務となっているので、生粋の剣士である二人には少々退屈な時代でもある。
「平和である事は勿論良いが、やはり私達の様な人間は緊張感漂う戦場の方が落ち着くな…」
「それ言ったら終いだろうが…万が一に備えて俺達は訓練を積んでるんだぜ?」
「まぁな…然し、これだけ平和だと士気も上がらないし訓練なマンネリ化し過ぎて武人離れも増えると言う物だろう?」
「確かに今は武人より文官の方が好まれる傾向にあるからな…」
「ああ…所で何でバレットは銃士隊に入ったんだ?」
「そりゃあ、何れは郷に帰り里の者達を守りたいし、後継者も育ててみたいからな、戦争はなくたって山賊や盗賊の類い、猛獣や獣の被害は後を絶たない…俺の故郷にも自警団はいるが、そいつらは可成りの高齢化が深刻な問題になってるし、ならば里に帰ったら未来の自警団員を教育、訓練するのは悪くないだろ?」
「成る程な…幾ら銃士隊が居るとしても限度はある、辺境過ぎる町や村迄手が回るとは限らないからな、とは言えこの町に自警団は居ないな…彼等はどうやって身を守っているのだろうか?…討伐依頼もこの2〜3年、この辺りからは依頼が来てないと言うのは不思議だ」
「言われてみればな…前は確か大型の獣退治見たいな依頼が年に2〜3回来ていたが…この2年間に一度も来た覚えがない」
二人の話題が警護の話になり始めるとそんな疑問が口を付いて出てくる、確かに2年前迄は大型の獣を討伐して貰いたいと言う依頼は1年間にあった、二人は良く近辺の森林等に依頼で赴いてはその責務を果たしていたらしいが、3年前の【フォレストタイガーの群れ】と言う依頼以降、一度も依頼が来てはいなかった。
自警団も居ない…軍隊も駐留してる訳でも無いこの町のこの平和っぷりは不思議で仕方が無かったのである。
そんな折。
2人の座る席の隣に座る数人の老人達が不思議な話をしている事に気付く。
「そういや…最近【暁の稀人】の姿を見なくなったと思わないか?少し前迄は良く森で見かけたのだが、この所姿を見ない」
「ああ…そういや見ないな、アレを見掛けると猛獣の死骸が一つ増えると言われていたが…こないだのアンクルベアの死骸を見ると、やっぱり暁の稀人はまだ森で暮らしているんじゃ無いか?」
「見ないっつー事は、この近郊の安全は守られたって事じゃねーか?…暁の稀人はそれを確認して違う森にでも移動してるとか?」
「そうそう、暁の稀人っちゃあ、ホワイトガーデンのアリスに似て無かったか?」
「似てるか?あの子は物凄く社交的で誰彼構わずに声をかける様な女の子だぞ、美人で強い部分がある事は間違いないが、流石にアリスちゃんではないだろう」
二人は【暁の稀人】と言う名前を初めて耳にした。
興味を引かれた二人は更に老人達の話に聞き耳を立ててみると、その正体が朧げに見える様になる。
暁の稀人と言うのはこの周辺の森の中で何度も見かけられた存在らしい、髪の色は白と言うより『白銀の長髪』で、その瞳は『赤』と言う事みたいである、その見た目の年齢は少女の様だが、その実力たるや否や猛獣と呼ばれる異端種を倒せる程に強い、然し超人的な能力を有してる為か見つかっても一瞬でその姿を見失うと言う。
何とも不思議過ぎる人物。
呼び名の由来はその赤い瞳と超人的な能力の持ち主で見た目の年齢にそぐわない妖艶美的な部分と、この辺りに住う人間では無い事から【暁の稀人】の呼び名が付いたと言う話だ、更にはこの数年、暁の稀人は出没していない事から彼女が別の場所へ移動したのでは無いか?…っと言うのがこの町や村、集落近辺の最近の噂である。
「……どう思う?バレット」
「少なくとも俺達は知らぬ噂だが、オルガなら知っているかもな、この街の住人だろうし…それに、噂に違わぬ実力ならば一度はお相手願いたいな」
「それには私も同意だ…然し、近年その存在は確認されていない、果たしてどれ程の実力か、旅先で遭遇したら模擬試合を申し込んでみるか?」
「それは良いな…さて、そろそろオルガが戻る、暁の稀人は一先ず置いといてその暁の稀人に似ているかもしれないらしいアリスちゃんに面会しようじゃ無いか」
「そうだな…店主!勘定を頼む!」
「畏まりました!」
バレットとミラはお勘定を生産すると店を出てオルガとの待ち合わせ場所である入口の休憩施設へと戻って行った。
その後はオルガと用心のアリス、そしてバレットとミラの4人で打ち合わせをする予定が組まれている、そしてこの町を出発し領都・ルードへと帰る旅が始まるのであるのであった。
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