Episode6…初めての野営と対人戦

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Episode6…初めての野営と対人戦

アラッソを後にした一行は野営も可能な位置まで馬車を進めて居た、馬車の揺れが心地良いのかアリスはウトウトし始めて気付けば寝息を立てている。 「さて、こればかりは避けれないが、野営地を見つけようと思う、ただ、噂で賊や大型の獣も存在するみたいだから気を付けないとな」 「なら、アラッソに行く前に野営したあの場所にしたら良いんじゃないですか?水も確保出来るし中々の立地だったと思いますよ、副師団長」 「オルガ、とは言っても行きとは違うかも知れないぞ、奴等は姑息だからな、行きを確認した斥候共が今度は一団を連れて襲って来るかも知れない、腕には自信があるが、多過ぎれば命取りにもなりかねない」 「そうね…とは言えあの場所は一番野営し易い、注意は必要だが馬車を置くにはとても良い場所だ、どうだろうかバレット、危険はあるがそこにしないか?」 「副師団長がそう言うなら良いですが、見張りは神経を擦り減らしそうですね…な、オルガ?」 「はい?…見張り役は俺ですか、先輩」 「当たり前だろ?見張りは新米が受け持つ仕事だ、ましてや我々は要人も連れて居るから気合い入れろよな」 そんなやり取りの末、野営地は同じ場所、3人には何回目かの野営ではあるが、当の要人であるアリスは初めて野営を体験する事になる。 場所は領都ルードとアラッソの町の真ん中辺りで左手にホワイトガーデン付近の森から流れ込む川があり、反対側にはその森から延長された森が広がっている、名前は無いがこの地にはフロンティア《辺境の地》と言う呼び名が付いていて、実に野営し易い場所だが、この立地条件は同時に森に潜み機を窺う悪き連中の絶好の場所ともなっていて、まだ、環境に馴染めていない山賊や盗賊の類がそれなりに確認されていた。 その矢先だ。 「お頭、獲物じゃ有りませんかね?」 「おっ!ありゃあ、何時ぞやここで野営していた奴等だな…戻って来たっつー事はあの牽引車に要人でも乗せているのかも知れない」 「然し、あの3名…ありゃあ辺境伯の奴の所にいる銃士隊の連中じゃないですか?」 「ばーか、こっちは10人も居るんだぞ、数で押せば奴等なんてぶっ倒せるじゃねーか!」 「成る程、確かに3人しか居ないですもんね」 「それにな…辺境伯家の連中の要人だ、きっと牽引車の人間は辺境伯家の奴…と言う事は?」 「おぉ…金蔓ですかい?」 「その通りよ、牽引車に乗ってる要人を攫って辺境伯に脅迫入れれば俺等は遊んで暮らせるって塩梅だ」 「良いっすね〜要人が女なら尚の事じゃねーですか」 「みんなご無沙汰だからな、まわしちまって用済みになったら殺して捨てちまえば御の字よ」 「やべぇ〜っす、滾りますね、お頭!」 「まあ、そうせっつくな、奴等の寝込みでも襲ってブッコロっしちまえば良い、先ずは要人の確認だな」 「そうすっね…女であります様に…っと」 森の一画に集まる連中は最近盗賊団を結成さしたばかりで、今は腕試しも兼ねてここに潜んでいる、噂でこの場所が狙い目と聞いていた彼等は以前、ミラ達がアラッソの町に向かう際、ここで野営をしたのを知っていた、先ずは偵察と言う気分で2、3人の仲間で様子を伺い、牽引車にはその時誰もいない事を確認している、ならばアラッソ側からくればお宝、若しくは金になりそうな要人を連れて来ると予想を立てて張り込んでいたのだ。 そんな所へ再び同じ馬車が来てここで野営をするらしい様子を窺い決行を決め、その要人が辺境伯家の人間であるかを確認する。 馬車が止まり、3人が野営する為のテントを貼り終えた頃、牽引車のドアが開き見目麗しい若い女性が姿を現した、沸き立つ団員、だが、彼等は知らなかったのだ、この若く見目麗しい女性がアリスである事を…その段階で彼等の目論みは砕け散る事になるとも知らず。 「ふわぁ〜…良く寝たわ…んっ?(1、5、10…ふ〜ん狙ってる訳か…)」 周辺に気配を感じたいアリスは何も見なかった様にオルガの所へ赴き、それを耳元で伝えた。 『兄様…10名です』 『そうか…アリスが言うなら間違いはないだろう…副師団長とバレット先輩に伝えるよ』 『お願いします』 オルガはそれを受けるとなるべく自然に何かを伺いに行く様な姿勢で二人の所に行くと事の次第を伝える。 『成る程な…行きは良い良い帰りは怖いとはこの事か…所でアリスちゃんは一体?』 「昔からですね…あの子の場合」 「成る程な!大したものだアリスちゃん」 「ええ…俺もアリスの薬の技術に惚れていました、こんな事まで出来るのかと」 これはフェイクである、敵に警戒心を抱かさない様に世間話をしている、そこにアリスも合流して雑談に花を咲かせた、やがて話をひと段落させて同じテントに四人が入り方針の話し合いが始まる、勿論、聞かれてはならないのでアリスが一つ魔法を使った。 「ミュート!」 それは消音効果の無属性魔法、凡ゆる属性を使えるアリスは薬だけではなく訊かれたくない商談話や会話等を制限する為にこの魔法を使う、こうする事により外部との音漏れを遮断し安心して会話が出来るのである。 「アリスちゃんは魔法も使えるの?」 「はい、訊かれたくない事やこう言った密談の際にはこの魔法で空間にバリアの様な物を作ります、そうすれば話が外部に会話が漏れませんから怪しいヒソヒソ話も必要なくなります。 「流石はアリスだな!兄ちゃんは鼻が高い!」 ドヤ顔をするオルガを怪訝そうな目で見るアリスとミラやバレットふとミラが思ったのはオルガのシスコン疑惑であった。 ミュートの魔法のお陰で外部に会話が漏れない事を理解すると対策会議の様な話し合いが始まる。 ・相手が来るのは恐らく夜である事。 ・奴等が今来ないのは恐らく牽引車に乗っていたアリスの存在を確認する為である事。 ・奴等の狙いは3名を殺害してアリスを拉致するだろうと言ういやらしい男の感性である事。 ・アリスが辺境伯家の懇意である要人と勘違いしている事。 等だ。 一通りの話し合いを終えると、アリスがミラから紙の切れ端とペンを借りて簡易的に用意したテーブルの上で何かを描き始め、やがて手が止まるとペンを返してからその紙片の上に手を翳して目を閉じる。 「トランスファー!」 その瞬間、ただの紙切れが鳥に変身する、これには三人共驚いてフリーズしてしまったが、直ぐに冷静さを取り戻すと「何事?」と言う顔をアリスに向けた、アリスはクスクスと可愛らしい笑顔を見せながら答える。 「これは物体変化の魔法…と言うか錬成術ですね…今、紙には明日この野営地に来れば気絶した盗賊が10人転がって居ますので回収お願いしますと辺境伯様に手紙を飛ばしました、紙のままだと不自然過ぎるので小鳥の姿に偽装してこれから飛ばします」 「バレやしないかい?アリスちゃん」 「大丈夫、透明化もするので姿を確認できなくなりますよ、術者でなければ…ですけど」 そう言ってアリスはテントを少しだけ開けて手を広げ息を吹きかけると…なんと言う事でしょう!さっき迄見えて居た鳥が透明化して視界から完全に消えたではありませんか!然し、アリスはちゃんと見えて居てその方向が辺境伯領と確認出来ると再び入口を閉じた。 「これで準備完了です、後は哀れな方達を待ちましょうね…兄様」 「あ…お…おう…」 「待て待て!アリスちゃん!敵は10人だぞ?ヤバくないかい?」 「いえいえバレットさん、来たらパラライズで痺れさせて動けなくしますから後は縛り上げるだけですよ…ちょっと楽しみですね!」 「…………」 「お、おい…オルガ…」 「副師団長、大丈夫です…アリスは恐ろしく強いに加えて、可成りS気質ですから」 「マジか…」 「はい!町でも悪党らしき四人組を完膚無きまで痛めつけて近くに住う男爵に引き渡したらしいですから」 そんな事もつゆ知らず、盗賊団の10名は牽引車から降りて来た超絶美少女に心酔していた、そんな美少女を楽しく犯せる等と言う妄想にふけ入り、中には涎まで垂れそうな位に妄想を爆発させてる者もいた。 そして…時が来た! 盗賊団は興奮気味な声で森から姿を現し、良しこれから邪魔な奴等をぶっ殺して美少女を犯し捲れる吐息撒いていた…が…。 それは叶う事なく、アリスの放ったパラライズにより全員が麻痺を起こして倒れた、手分けして片っ端から四人に縛り上げられていく中、アリスは麻痺したこの盗賊団のお頭らしき男の前に立ち不敵な笑みを浮かべている。 そこからお頭らしき男の悲劇が始まったのだ。 「おバカな豚さんね…私を捕まえてあんなことやこんな事を妄想してたんでしょうけどご愁傷様ね…あ!そうだそんな不貞の輩にはお仕置きしたげないと…」 そして、その後…このお頭の様な男にはアリスの怖い怖いお仕置きと彼の悲鳴が響いた、慌てて三人が到着すると口から泡を吹いて倒れている。 「まさか…やっちまったのか、アリス」 「違うわ兄様…彼が私を犯したいなんて言うからちょーっと2、3発お仕置きしただけよ、殺してはいないわ…可愛がってあげただけ…ウフフフッ」 アリスは可愛らしく笑顔を見せて居たが、バレットとオルガは気が付いた、ズボンの下半身辺り…大事な部分が泥まみれである事を…曰く…それは… 二人が青くなったがアリスは私しらな〜いと至って普通の顔をしていた。 後日。 彼等が辺境伯家の銃士隊に連行された事は4人の知る由もない事である。
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