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間話2…バロッソの村にて…
バロッソは川沿いにある小さな村だ、ここは農業のみで生活する人が多く、村に入っても食事処と酒場が一軒のみしかなく、宿泊するには無理がある場所、食事と言うのも農作物や川魚等がメインであり、この村に住む人は肉類を余り口にした事はないと言う。
朝、野営地から出発した4人は、領都ルードに入る前の最後の休憩地としてこの村に立ち寄った、主な事は水の補給、水量の豊富な村には幾つもの湧水があり、川からの恵みとしている。
休憩がてらこの村の村長宅に寄った4人はここで少しの時間、自由行動となる、ミラは村長と水の補給に関する取引をする為おらず、村の中はバレット、オルガ、アリスの3名で散策していた。
「兄様、見るからに農村ですね…ここ」
「だな。でもね…アリス、村単位で自給自足が出来るのはこの辺りじゃここだけで、他には余り無いんだ」
「村単位で自給自足なのですか?凄いです!」
普通の村ならば何かしら商人を頼る部分が有るけれどここは特殊らしい、必要な物は手に入る、砂糖や塩等も例外にない、何でも森に入ると不思議な事に塩湖と呼ばれる場所が存在し、砂糖に関してもこの村ではサトウキビの様な植物がある、このサトウキビに似た植物はアメーリの茎と言われて気温に関係なく一年中採れて純粋な砂糖とは行かないが可成りの甘味を含んでいる、だからこの村に住む人は商人を頼った事がない。
小麦粉畑、果実園、野菜畑、川魚の保護活動と村全体で望んでいる、更にはこの村が気に入って都心から流れて来た鍛治職人も居るので殆ど高い商品を売る商人から品物を購入する事もなかった。
そんな話をしながら歩いていると、川岸の所で何やらぐったりとした少女を発見したのはバレット、すかさず彼は少女の所に駆け寄ると意識の落ち掛けていた少女に声を掛け始める、その後に気付いたアリスとオルガも走り寄りアリスは早速ぐったりする少女の様子を見る。
「アスク!」
アリスは少女の胸元に掌を翳してそう唱えてハッとして二人を見た。
「この子は一体…?」
「何か解ったのか…アリス?」
「毒に当たっています、このままだと命の危険が…ちょっと待って下さいね」
アリスは流れる川縁で小さな小瓶を取り出して水を汲みその小瓶の中に周辺を見渡して見つけた葉を数枚千切って小瓶に入れ手を翳す、すると小瓶の中に入った水が気泡を立て色が変わり始めた、更にアリスは至る所にあるアメーリの茎を見つけて摘み、こぼれ落ちる水滴を小瓶に入れて数回振った。
「これで毒消しのメディカルポーションが完成です、早く彼女に飲ませましょう…って自力では無理そうですから私が口移しで飲ませましょう」
アリスはそう言うと二人が物言うよりも先にメディカルポーションを口に含んで彼女に口移しで飲ませる、するとみるみる内に少女の顔から毒気が抜け始め、数回の口移しの後、少女はハッとして目覚め、同じ女性…いや、超が付く美少女からの接吻に驚いて後退り真っ赤な顔をしてアリスの方を見つめた。
「あ…あの…これは一体?」
余りの恥ずかしさに少女は声を振るわせる、だが、ふと周りを見れば男性が二人いた為に正気を取り戻し、接吻が美少女とは言え同じ女性であった事にホッとした。
「貴女、ヤドクリタケを食べたでしょう?」
「あ、余りに空腹で何だか栗の実に見えてつい…そしたら急に可笑しくなってこの有様です」
「アリス…ヤドクリタケって確か致死性はないけど食べると毒素に侵されるやつだよね?」
「そうです、兄様…アレは見た目が栗に見えてしまうので間違えて食してしまう事が良くあります、毒性は弱いですが、子供には可成り強い毒になります」
「流石は薬師…か?」
「バレット先輩、アリスは薬師ですよ、それに加えて植物を見分けるエキスパートです、だから直ぐに気付いたのです」
そんな会話を聞いていた少女がその失態に更に顔を赤くして俯いた、二の句の告げない顔をした少女にアリスは優しく微笑んで声をかける。
「貴女は村の子?」
「はい…両親は居ませんが祖父母が親代わりとなって育ててくれています、私、手伝いで来たんですが…」
「成る程、それで空腹に負けて口に…」
「はい…恥ずかしいです」
とは言え過ぎた事を何時迄話した所で碌な事はないので一旦落ち着かせる。
「ありがとうございます…見ず知らずの私に」
「困ってる人が居れば私は駆けつけますよ、毒で死んでは恥ずかしいですし、報われないでしょ?私はそんな人を一人でも多く助けます、今日だって私達が通らなかったら貴女は死んでいたわ…本当に良かった」
「確かにそうですね…本当にありがとうございます」
少女は何度も振り返りながら三人に挨拶を繰り返して森の中に消えて行った。
「そんな事が…いや、益々アリスちゃんに期待してしまいそうだわ」
自由時間が終わり村長宅に戻った三人はその時間にあった事をミラに話していた、だが、村長は何処か怪訝な表情をしていたのでバレットが追求した。
「実は…そんな少女、この村には居ないんですよ」
「「「へっ?」」」
ミラ以外の三人が村長の発言に驚き、実際に関わったアリスは不意に当初を思い出す、彼女は水辺にいた、そして毒によって命を落とし掛けていて、急遽アリスはポーションを作り彼女に口移しでそれを与えた…だが、アリスも正直違和感を覚えていた事を思い出す、実は口移しをしてる時、その少女から人間っぽさを感じなかった。
「多分、ドライアドの悪戯ではないでしょうか?アリスさんが体験したのは…」
普通のドライアドと言えば樹木を根城にする魔物…だがこの世界から言えばそれは木の精霊である、悪さをする事もしない…村長の話を深掘りすると、この世界のドライアドと言う存在は人間の姿に擬態して悪戯をする様なそんな存在である事を知った。
つまり。
あの時、アリスはそんな悪戯好きなドライアドの悪戯に付き合わされた…そう言う事である。
「焼き尽くしてやりたくなりますね…兄様」
「いやいや、燃やすな、アリス…実害は無いのだからここは穏便にすませよう…なっ!」
「うう…兄様が言うなら我慢しますよ」
「そうしてくれ…アリス」
腑には落ちないが、アリスはどうやら怒りの矛先を収めてくれた様だ、然し、同時に思う。
「次は見極めて焼き払う!」
……と。
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