エピローグ

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 貴様が出雲を殺したのです。あのとき、出雲は夜に地響きを聞いたと証言しただけと貴様はノートに記述したようですが、出雲は別の証言もしていたのでしょう。  出雲は桜野美海子の犯行現場を見てしまったに違いありません。  出雲は二日目の夜も、貴様の部屋へ行こうとしたのでしょう。あれが貴様に惚れているのは誰が見ても間違いがありませんでした。しかしそのとき、桜野美海子が藍条香奈美を連れて外へ出て行こうとしていた――本当にこのときかは分かりませんが、ともかく藍条香奈美を殺害する一連の流れのどこか、ですね。サロンは三階まで吹き抜けで、出雲が部屋の扉を開けると、玄関が丸見えとなります。  桜野美海子の犯行現場を目撃した出雲は、貴様の部屋へ行くのを断念します。恐怖心もありますし、桜野美海子の同伴者である貴様への疑いも兆したでしょう。  しかし三日目、出雲は貴様が潔白と判断しました。と云うより、信じたのでしょう。それくらい貴様に惚れていました。あんな危機的状況において、支えてくれる存在を望むのは当然です。そうなると、男性が貴様しかいなかった、というのも大きな理由ですね。  出雲は自分が見たものについて、貴様に相談しました。  桜野美海子の犯行を見守る貴様としては、出雲を生かしておくわけにはいかなくなります。その場で首を絞めて殺害したのではないでしょうか。そうすれば、その痕に沿って首を切断し、首切りジャックの犯行に見せかけることが可能となります。切り口は雑だったでしょうが、もうこの頃になると首切り死体を誰も注視しません。  貴様が風呂に入ったのは、作業を終えて、返り血や血の臭いを落とすためですね。切断に何を用いたかは分かりませんが、厨房や倉庫に凶器を取りに行くことは容易だったでしょう。  貴様がおこなったことは、大まかには以上ですね」  僕は否定もしなければ肯定もしなかった。 「無花果ちゃんは早い段階から桜野が犯人だと知っていたんだよね。だから首切りジャックに、彼女を殺させなかった。桜野と僕がなかなか標的にされないのは、いくら機会が少なかったとはいえ、都合が良すぎると思ってたんだよ。でも君も、桜野がやろうとしていることに興味があったんだね」  無花果ちゃんは否定もしなければ肯定もしなかった。  代わりに僕らは笑い合った。
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