行きつけの服飾店で 2

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行きつけの服飾店で 2

「っ、──ご機嫌よう、レイスティア公爵令嬢。……レイスティア様も、本日はパーティー用のドレスを買いにこちらへ?」  リィンの声を聞き、目の前の彼女たちは振り向く。  ミーニャは1度驚きはしたが、間髪いれずに言い返した。 「あぁら、どこの羽虫かと思えば侯爵令嬢の。ええそうよ。だって、今度のパーティーではわたくしが殿下のパートナーになるはずですもの、みすぼらしいドレスなんて着ていけないでしょう?」  リィンは率直に、自分に対してすごい自信を持っているなぁ……と感じた。  しかし腐っても公爵令嬢、加えてそこらの女子よりかは整った顔立ちをしているのだから、当然といえば当然だ。 「──……ではよろしければ、わたくしもレイスティア様のドレスを見繕っても? レイスティア様のような美形の方に合うドレスをいちど見てみたかったの」 「は、はあ? あなたがわたくしに合うドレスを選べるとは思わないのだけど?」 「ご安心ください、必ずやわたくしがレイスティア様に似合うドレスを見つけてさしあげますわ!」  意気込むリィンを見て、呆気にとられるミーニャ。  リィンはそんなミーニャを気にも止めず、ドレスの列を見始めた。 (なんとかここまで、持ってこれたわ。……ええと、レイスティア様の輝くような金髪とピンク色の目には何色がいいかしら……緑系統の色? でも目立ちすぎちゃうからリボンでさりげなく飾られたもの……このあたりね。レイスティア様はそのままでも十分すぎるほどの美貌だから……ドレスは白がいいかしら? それから──)  うきうきしながらドレスを見ること約10分。  リィンはドレスの列から、1着のドレスを取り出していた。  真っ白なドレスには腰の辺りにのエメラルドような色をしたリボンが巻かれ、裾に向かうにつれ水色のグラデーションになっていた。さらにパールで装飾が施されているため、空に輝く虹の粒子のようになっている。 「こんなのはどうでしょうか? レイスティア様の場合は飾りが多いとレイスティア様の美貌が霞んでしまうと思ったので、控えめなものを選んでみましたが……」  きゃあ、とミーニャの横に立っていた令嬢の誰かが歓声を挙げた。 「……悪くないかもしれないわね」  素直に誉めたくないのか、悔しそうな表情を浮かべながら言葉を返すミーニャ。  そんなミーニャにも構わず、リィンはどんどん進めていく。 「着てみてはいかがですか? 似合うかどうかは着てみないと分かりませんから」 「……っき、着るくらいならいいわよ。どうせ高貴なわたくしに合うはずはないけれどっ」 「素材は一級品らしいので、レイスティア様も少しはお気に召すかと思ったんですが」 「──……っ」  リィンの言葉を聞くと、ミーニャは試着室に向かい、乱暴にカーテンを閉めた。  すると、リィンの横にミーニャの横にいた令嬢が進み出た。彼女たちのなかでも、いちばん地位が高い令嬢のようだ。 「はじめまして、リィン・ベリー様。私は男爵令嬢のアリス・セーリアといいます。……ベリー様は、センスがいいんですね。ミーニャ様も心の奥底では気に入ったご様子でした」 「あれは、気に入っていたの……かしら? でもありがとう。これでレイスティア様と仲良くなれたらいいのだけど」 「──ミーニャ様と、ですか?」 「ええ、そうなの」  アリスに驚かれたリィンは、苦笑いをしながら頬に手を当てた。  しかし、それも当然だろう。ミーニャと一緒にいる人は皆、親や家の付き合いから行動を共にしているに過ぎないのだから。  つまり、その令嬢たちがいなければひとりの、普通に嫌われている令嬢なのだ。 「特に深い意味はないのだけれど……レイスティア様と仲良くなれたら楽しくなりそうだわって思ったの」 「──……きっと、ミーニャ様は喜びますね。決してそれを表に出す方ではありませんが」  苦笑いを浮かべながらアリスが言った。  すると、リィンが選んだドレスを試着していたミーニャから声が掛かった。 「……ねえ、そろそろ出てもいいかしら?」  この言いぶりからすると、リィンとアリスの会話を聞いていたのだろうか。  顔を見合わせたあと、アリスがミーニャに合図を出した。 「出てきても大丈夫ですよ、ミーニャ様」 「……じゃあ出るわよ」  どこか投げやりに言い放ったミーニャはすぐに試着室から出てきた。彼女は、照れ隠しなのだろうか、少しだけ俯いていた。  そのミーニャはひとことで言って、とにかく綺麗だった。  金髪と白は色合いが相まって天使のようであり、下に広がる裾の飾りは、控えめながらも彼女の良さを引き立てている。 「まあ! ミーニャ様によくお似合いです! これならきっとアース殿下もお気に召しますわ」 「そうですよ、こんなに綺麗なお方は見たことがありませんから」 「もし私が男性だったらダンスを申し込んでいますわ」  すかさずアリスが誉め、他の令嬢も矢継ぎ早にミーニャの姿を称賛する。  その言葉は、いずれも彼女たちの本心から出ているようだった。 「そこの、お名前なんでしたっけ。……侯爵令嬢の……──」 「リィン・ベリー様ですよ」 「あぁ、そう。このドレスを選んだのだから、少しは誉めてくれてもいいんじゃなくて?」  声をかけられたリィンは、はっとしたようにミーニャのところを向いた。  そして、ぽつりぽつりと語り出した。 「と、……とても似合っていますわ!! まるで空から降りてきた天使みたいで……! ドレスでこんなにも印象が変わるなんて知らなかったわ!」 「……っ、そ、そうよ、わたくしが着たんだから当然でしょう? ……その、それで……あなたは、わたくしと仲良く、なりたいんじゃなかったかしら」  そっぽを向きながら、途切れ途切れに言うミーニャ。  リィンがその言葉を理解すると、ものすごい勢いでミーニャの手を取った。もちろん力はそんなに込めていないが。 「そ、そうなんですの! わたくし、レイスティア様と仲良くなりたくて……! まずは呼び方からと思ったんですが……もしレイスティア様さえよろしければ、ミーニャ様とお呼びしても?」 「っ、勝手にしなさいよ。わたくしは別に、あなたと仲良くしなくてもいいのだけど」 「ありがとうございますっ、ミーニャ様!」 (ミーニャ様は素直ではないけれどお優しい方なのだわ!)  ミーニャの手を取りはしゃいでいるリィンに、ミーニャはされるがままになっている。  こうしてリィンはミーニャと仲良く(?)なることに成功したのだった。
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