初めてのお茶会

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初めてのお茶会

 春期休暇も残り約1週間となった今日、リィンはミーニャたちととある約束をしていた。  それは、リィンとミーニャ、アリスを含む5人でお茶会をするということだ。 「いってらっしゃい、リィン」 「う、うん……! いってきます!」  緊張した面持ちで寮の部屋を出ていくリィンを、にこやかに手を振ったメイが見送る。  そのままリィンは前を向くと、約束したカフェへと向かっていく。 (今日は、ミーニャ様と更に仲良くなれるチャンスだわ! そのためにメイやニーナと練習したし、きっと大丈夫……)  そんなことを考え続けていると、いつの間にか目的地へと着いていた。  カランカラン、と心地のいい音と共に扉を開くと、ミーニャたちはすでに席に着いていた。 「わあっ、すみません! 少し遅れちゃいました……?」 「大丈夫ですよ、まだ約束の5分前ですから」 「そ、そうなの……? 良かったわ……」  優しい笑顔で迎えてくれたアリスの奥には、いつも通りの様子でミーニャが座っていた。 「あっ、ええと……本日は、このお茶会に招いていただいてありがとうございます……!」  メイとニーナと共に何度も練習した言葉を言う。最初こそ戸惑ったが、迷いなく言いきることが出来て安心した。 「……あぁもう、そういうのいいから早く座りなさいよ」 「それじゃあ、お言葉に甘えて」  どうやらミーニャは堅苦しいやりとりは嫌いなようだ。  すんなりとリィンが座ると、それを見兼ねたアリスが話題を振ってくれた。 「リィン様は、普段どのようなことをして過ごしているんですか?」 「わ、わたくし? えーと……普通に読書や勉強をしているだけなのよね……」 「勉強ですか!? すごいですね……私っ、勉強しようとしてもやる気がでなくて」  えへへ、と頬をかくアリス。 「そういえばミーニャ様やケイト様とフレデリカも、お勉強が得意でしたよね?」 「まあ、さすがにベリー様ほどではないけれどね」 「ええっ、わたしもですか!? わたしは平民出身ですから、こういった学院に通うには勉学を頑張って学費を免除してもらうしかなかったからですよっ」  アリスの声ではっとしたように声を出したのは、伯爵令嬢のケイト・ヴェスラーと平民出身で入学式で次席だったというフレデリカだ。 「す、すごいわ……フレデリカさんは、元々頭が良かったんですか?」 「! い、いえそんな……兄が通っていて、憧れて勉強しただけでっ」 「憧れたことのためにしっかりと勉強出来るのはすごいことよ!」 「そ、そう……ですか? えへへ……ベリー様に誉めてもらえると嬉しいです」  仲良くと言えるかは微妙だが、既に打ち解けた様子で話すふたりを見つめる視線があった。  その視線に気づいたリィンはその人物──もといミーニャに話しかけた。 「ミーニャ様もどんどん話しましょうよ! わたくし、ミーニャ様のお話も聞きたいですわ」 「は、はあ? わたくしの話? ろくなものないわよ」 「それでもいいです!」 「……………………はあ、あんたってか・な・り! めんどくさいわね!」  いつもにましてテンションの高いリィンに押しきられ、嫌々と言った様子でミーニャが話し始めた。 「話せることなんてあまりないけど……わたくし、まわりの人になんだか距離を置かれてる感じがするの……。わたくしだって皆とわいわい話したいって思うときがあるわ」  ミーニャの口からでたのは、意外にも愚痴だった。  彼女は芯が強そうな見た目をしているが、寂しいと思うことはあるようだ。 「……ミーニャ様に漂う高貴なオーラに、皆気圧されてるとか、ミーニャ様はひとりでも強そうというか……」 「そっ、そんなことないわ! ……わたくしだって普通の学生みたいにしてみたいのに」  その言葉を聞いたリィンは、とあることを思い付いた。  いつの間にか手で顔を覆っているミーニャに、リィンは話しかけた。 「ならなおさら、わたくしと仲良くしていただけませんか!? わたくしにはメイとニーナがいますから、話し相手が3人も出来ると思いますが!」 「……え、」  リィンの言い出したことがなかなか信じられないのだろうか。目を開き、こちらを見つめるミーニャ。  普段なら「そんなのはあんたの勝手なお節介よ」と言い突っぱねていたことだろう。  しかし。 「……リィン、でしたわね。……っ別に、わたくしはあんたと仲良くしなくてもいいのだけど? そっ、そこまで言うから……仕方なくよ……」 「! よろしくお願いしますミーニャ様!!」  ぼそぼそと告げたミーニャの言葉を、リィンは明確に聞き取ったのだろう。  ガタッ! と大きな音を立てて立ち上がったリィンは、今にもミーニャの手を取る勢いだった。 「では、春季休暇が終わったら食堂でお昼を食べましょう。そちらとこちらの都合が合ったときだけで構いませんから」 「……分かったわ。でも、どうやって連絡を取り合うつもり?」 「……確か、そちらのケイトさんとわたくしのニーナは寮の部屋が同じでしたわね?」  いきなり名前が出てきたことにびっくりしたのだろう、言葉につっかえながらも言葉を返した。 「わっ、私ですか? 確かにニーナとは同じ部屋ですけど……なぜ知っていたんですか?」  ケイトが疑問に思うのも当然だろう。しかしその様子を見て、リィンは事も無げに言い放った。 「なぜって……ニーナが話していただけよ。『とても優しくしてもらってますよ』ってね。それよりも、任されてくれるかしら?」 「……はい、私でよろしければ。リィン様は慈愛の心を持ったお優しい方なのですね」 「そうかしら……?」  首をかしげながらも、リィンはこれからのことに想いを馳せていた。
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