幼い頃の記憶

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幼い頃の記憶

 ──確か、彼と初めて出会ったのはだいたい6年前だった。  リィンは6歳だったので、つまり彼は当時4歳だったことになる。  前日に行われた第3王子、第4王子の誕生記念パーティーでアースと初対面したリィンの元へ、翌日王家から婚約の御達しが届いていた。アースは、リィンに対して好印象を抱いていたのだろう。  それからはトントン拍子で、リィンはアースの婚約者になることになったのだ。  そして婚約式を挙げる下準備のために、リィンとその両親は王宮を訪れていた。  6歳だったリィンは王宮の物珍しさに親元を離れ、広い王宮を歩き回っているうちに迷子になってしまっていた。  その時だ。 「おねえちゃん、こんなところでどぉしたの?」  うろうろと落ち着きなく辺りを歩いていたリィンに、彼は話しかけてきた。  リィンは迷子になってしまったことで頭がいっぱいになっており気にも止めなかったが、彼は王宮に詳しかった様子だった。 「うーん……とりあえず、こっち!」  そう言うと彼は、リィンの手を取って王宮の中庭へと案内してくれた。  中庭の椅子に座ると、足を揺らしながら再びリィンに話しかけた。 「おねえちゃんのおなまえ、おしえて!」 「……わたし、リィンっていうの」 「じゃあ、リィンおねえちゃん! リィンおねえちゃんはどうしてここにいるの?」 「どうしてって……わたしが、アースさまのこんやくしゃになった……、から?」 「そぉなんだ、すごいね!」  屈託ない笑顔を向けてきた彼に、リィンは無意識のうちに緊張を解いていた。 「リィンおねえちゃんはどぉしてアースおにいさまのこんやくしゃになったの?」  アースのことを“アースおにいさま”と呼ぶ彼が王子であることは、幼いリィンもうっすらと理解できたことだ。 「……わたしにはよくわからなかったけど、アースさまがわたしにひとめぼれ?したって。そうしたら、おうけからおたっし?っていうものがきて、そうしたら、わたしがこんやくしゃになったの」 「じゃあ、アースおにいさまのこんやくしゃになれたリィンおねえちゃんはしあわせ?」 「……うん、しあわせだよ」  彼と話し始めてから、そこで初めてリィンの口元が緩んだ。 「だって、わたしがアースさまのこんやくしゃになってから、おかあさまたち、わたしにやさしくしてくれるようになったもの」 「……、まえは」 「り、リィン……っ!」  彼が何かを言いかけたとき、リィンの父親の声が辺りに響いた。遅れてアースと共にリィンの両親が中庭へ入ってきた。  話の途中でリィンの姿が見えないことに気がつき、探しに来たのだろう。 「おとうさま、おかあさま! それにアースさまも!」 「勝手にいなくなるんじゃない。探すのに時間がかかるだろう」 「ご、ごめんなさい……」  親に軽く叱られ、謝るリィンを見ていたアースは、リィンの正面に座っていたもうひとりの姿に気づいた。 「おま」 「アースおにいさま、リィンおねえちゃんのこと、ちゃんとしあわせにしてあげてね」  彼がそういうと、リィンの両親も彼の存在に気がついたようだった。 「お、お初にお目にかかります、第2王子殿下」 「──……だいにおうじでんか?」  薄々と分かってはいたが、いざ分かると驚いてしまった。  そんなリィンを見た彼は、先程よりも少し大人びた表情を浮かべていた。わざと、リィンが話しやすいような態度を取っていたのだろうか。 「そんなぴしっとしなくていいよ、まだぼく4さいだから……あぁそうだ、ぼくのなまえ、だいってなかったよね」  そう言うと、彼は立ち上がってリィンの元へやってきた。 「ぼくはね────」
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