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 この街にたどり着いて最初に寝込んでいた公園のベンチに、今日も座る富樫。  ふう、と一息ついた。  3日経ったが、警察の手はまだここまでは来ていない。  目立たないところに段ボールハウスを造って寝泊まりしていた。  所持金はすでに千円を切っている。ポケットの中には小銭がジャラジャラとしていた。  日雇いの仕事でもすればいいのかもしれないが、そうするとすぐに身元がばれて警察に捕まるだろう。  それでもいいかな……?  そんな気もしてきた。自暴自棄になっていた時に、あの事件。流れは悪い方に向かっている。  俺の人生なんて、こんなものだったのかもしれない……。  空を見上げて大きく息を吐いた時、数名が近づいてくる足音が聞こえた。目をやると、ホームレスらしい男達がこちらを見ている。  「なにか?」  戸惑いながら訊く富樫。  「あんた、富樫巧だろ?」一人が代表して言った。「プロボクサーで、傷害事件を起こして逃げている……」  ギクリ、とした。  男はスポーツ新聞を差し出した。見ると、自分の顔写真が大きく載っている。   9月8日夜、横浜市港西区の工事現場付近で、男性5人が血まみれになって倒れているのが発見された。皆、鼻や顎、肋骨等を折る重傷だった。被害者や走り去る男を見たという目撃者の証言から、犯人は富樫巧20歳。プロボクシング・ライト級の選手である事が確認され、警察が行方を追っている――。  そんな記事が書かれていた。
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