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 その病院は幹線道路沿いにあった。まだ人が行き交っている。  富樫は気障男に続いて玄関に向かう。胸に悠香を抱きしめていた。  突然、人影が目の前に来る。  「悠香っ! 悠香だろ? おまえ、なんでそいつを抱いてるんだよ?」  若い男女2人連れだった。男の方が問い詰めてくる。  「なんすか? あんた達?」  険しい表情で訊く富樫。気障男も怪訝な顔で立ち止まる。  「私たちの子だよ、それは。あんた何? なんで悠香を抱いてるの?」  女の方が言った。敵意をむき出しにしたような顔だ。  こいつらが……。  富樫は2人を睨みつけた。  「悠香ちゃんは高熱を出して苦しんでる。今、そこの病院へ連れて行くんだ。邪魔しないでくれ」  富樫がそう言うと、男はペッと唾を吐いた。  「解熱剤でも飲ましておけばいいだろう。返せよ、そいつ。まったく、勝手に出て行きやがって」  富樫は一旦、悠香を気障男に託した。彼は大事なものを扱うように彼女を胸に抱く。  「ふざけんなよ、おまえら。悠香ちゃんを虐待していただろう? おまえらに親の資格なんてない。帰れ。この子はもっと良い所に行かせてあげるんだ。こんな小さな子供から、幸せを奪うんじゃないっ!」  叫ぶ富樫。その声が響き渡る。行き交う人々が、目を見開いていた。  「ふぜけてんのはおまえだ。うざい野郎だよ。死にてぇか?」  男の方がナイフを出した。それを富樫の目の前にかざす。  富樫は慌てなかった。無造作に左手を繰り出す。ジャブだ。それで男の手首を打ち抜くと、ナイフは宙を舞った。  え? と驚く男。後ろで女も目を見張る。  更に富樫が左ジャブを素早く放った。男の顔スレスレ、左右の空間に目にもとまらぬ勢いで何発も。  「チンピラ5人をぶちのめして逃げているボクサーがいる、っていうニュース知ってるか? それ、俺だよ。6人目にしてやろうか?」  睨みつける富樫。男は慌てて後退り、女の手を引いて逃げて行った。
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