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10
富樫巧の裁判が始まった。
那美は法廷の傍聴席に来ていた。
検察側証人席には亮次達がいる。近くの傍聴席に、谷口弁護士もいた。
審理は粛々と進む。
富樫の弁護士は、街中で亮次達五人とすれ違い因縁をつけられ、工事現場に連れ込まれて喧嘩になった、と説明していた。
亮次達は、富樫から喧嘩を売られたと訴えている。
プロボクサーである富樫の方が、明らかに不利だった。検察官が彼の行為を強く批判し、厳罰を、と主張していた。
違う、違う、違う……。何度も首を振る那美。あの日、少女のために怒りをぶつけていた富樫の姿が目に浮かぶ。
黙っていたら、私は一生後悔する――。
そう思い、立ち上がった。
「違います。富樫さんは私を助けてくれたんです。悪くありませんっ!」
気がつくとそう叫んでいた。
騒然となる室内。
谷口弁護士が睨みつけてきた。しかし那美は、彼に向かって「こんなお金いらないっ!」と手をつけずにいた札束を投げつける。そして、亮次を指さした。
「悪いのは、そっちの人達です。私は、その人達に襲われました。改めて訴えます!」
静粛に、と言う裁判官の声が響いた。
驚いている富樫と目が合う。那美はしっかりと頷いた。
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