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 森野那美(もりのなみ)が高校の正門を抜け、校舎に向かっていると、数名の女子高生が近づいてきた。  ハッとなり、身構える。  「那美、あんた、一昨日(おととい)の夜の亮次達がやられた件、一枚噛んでるんだろ?」  彼女たちのリーダー格である田畑利香が、問い詰めるように言う。  「知らない……」  目を背ける那美。  更に睨みつけてくる利香。他の生徒達が、那美を取り囲むようにする。  那美は彼女たちに、数ヶ月前からいじめを受けていた。  最初は那美の方も強気で、毅然とした態度でいられた。しかし、利香は狡猾でもあり、まわりの者達を脅したりしながら、次第に孤立させていった。  一昨日(おととい)の夜は、無理矢理呼び出され、亮次という悪い評判が多い男のグループにひき会わされた。  亮次は数年前にこの高校を退学となったものの、今でも不良グループを裏で操るような札付きのワルだった。しかも、父親が市会議員を務めており、多少の悪さをしてもその権力でうやむやにしてしまう、という噂も流れていた。  「亮次も他の連中も、大ケガして病院へかつぎ込まれた。傷害事件の被害者っていうことで警察にも調べられてる。あんたのことは誰も何も言わないから、あのことは黙ってなよ」  言い含めるような口調の利香。那美は思わず睨み返してしまう。  「何だよ、その目は?」  取り巻きの一人が那美の肩を押す。  利香がわざとらしく止めた。  「亮次達をやったヤツの事は、知らないのか?」  「知らない……」  本当に知らなかった。その後の報道で、プロボクサーの富樫巧という人だと聞いた。  「じゃあ、いいや……」  利香が去って行く。取り巻きの連中も続いた。  私は、どうすればいいんだろう……?  那美はただ(たたず)むことしかできなかった。
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