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「警戒せんでもいいよ。タレ込んだりはしない。ただ、やっかいごとに巻き込まれるのはイヤなんだ。こんな街だが、騒動とかなしで過ごしたい。警察とも別に対立しているわけじゃない。聞き込みとかされたら、隠しだてはできないよ」
「ですよねぇ……」
溜息混じりに応える富樫。
「逃げまわっていてもいずれ捕まると思う。できればそれは、この街じゃない方がいいんだがね。追い出すつもりはないけど、ここの連中に迷惑はかけんでくれよ」
富樫がガックリと項垂れていると、彼らは「じゃあ」と言い残し去って行った。
「あーあ、言われちゃったねぇ。まあ、連中の気持ちもわからなくないけどね」
間延びしたような声がかかり、富樫は顔を上げる。
別のホームレスらしき男が立っていた。
「この街にこだわらないなら、行き場所はたくさんあるから、教えてやってもいいよ。でもさ、あんたまだ若いし、やり直しはいくらでもきくと思うんだがなぁ。俺、警察関係者に知り合いも多いんだよ。なんなら紹介してやるけど?」
「いや、それはまだ今は……」なんと応えていいかわからなくなった。「ところで、あんたは?」
「俺? ここらから本牧あたりにかけてウロウロしている者だよ。気障男って呼ばれてる」
「気障男?」
「洒落たことばっかり言うから、やっかみかな?」
いたずらっぽく笑う気障男。富樫の横に腰を下ろした。缶コーヒーを一つさし出してくる。ありがたくいただくことにした。
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