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4
授業が終わり、帰宅の途につく那美。
静かな郊外の道を歩いていると、不意に男性が一人近づいてきた。穏やかな表情の紳士だ。
「森野那美さん、ですね?」
「そうですけど?」
立ち止まり、警戒の視線を向けながら応える那美。
「私は、佐島康輔氏の顧問弁護士をしている、谷口和夫という者です」
「佐島康輔?」
確か、市会議員だ。もしかして……?
「佐島亮次さんの父親です」
やっぱり、と息を呑む。
「あなたは、高校でいじめを受けていたそうですね。今、亮次さんを通じて、いじめをしていた学生達に注意がいっているはずです。あなたに酷いことをしないように、と」
那美はキッと谷口を睨みつけた。見え透いている。亮次がいるから、利香達は学校で幅を利かせているのだ。
「失礼します」
怒り、不安、つらさ、あらゆるマイナスの思いが交錯し、気持ちが乱れてしまいそうだった。那美は堪えきれず、立ち去ろうとした。
「お待ちください。これを受けとっていただきたい」
谷口が前に立ちふさがり、那美の手に無理矢理茶封筒を握らせた。厚い。
「何ですか、これは?」
「あの夜、何があったのか、あなたは何も知らない。あなたはあの場所にいなかった。そういうことで、お願いします」
谷口が丁寧ながら強い口調で言った。
茶封筒を開けてみると、そこには札束が入っている。おそらく、百万円はあるだろう。
「口止め料、っていうことですか?」
「いえ、お見舞い金とでも思っていただければ」
そう言い残すと、谷口はきびすを返し離れていった。
戸惑う那美。
どうしよう……?
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