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 目を覚ますと、すでに明け方になっていた。遠くの空が白んできている。  富樫巧(とがしたくみ)は、慌てて上体を起こした。  狭く汚い公園のベンチだ。逃げまわってたどり着き、一休みするために腰掛けたのだが、つい寝入ってしまったらしい。  まいったな、と両手で顔を覆おうとして止まる。どちらの拳にも血がついていた。  公園の端に小さなトイレがある。ゆっくりと立ち上がり、そこへ行って手を洗った。  ついでに顔も洗う。無理矢理目を覚まさせた。  トイレを出て、辺りを見まわす。  公園だけではない。街全体が汚くて狭くて、ごみごみしている。いわゆるドヤ街に紛れ込んできたらしい。  安宿や薄汚れた飲み屋が建ち並ぶそこらの路上に、座り込んで寝ている者達もいた。  離れた場所には段ボールハウスもある。ホームレスが住みついてもいるのだろう。  まあ、いいや。こういう街の方が隠れやすいだろう……。  ふう、と溜息をつく富樫。  昨夜のことを思い出した。  チンピラみたいな連中を5人、叩きのめした。たぶん皆、大ケガをしているだろう。  プロが素人に拳を使っちまった。もう、終わりかな……。
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