15人が本棚に入れています
本棚に追加
デートの約束はしたものの
舞衣の家から戻ると、いつも通り駿が来てて、夕飯の支度を手伝ってたのかと思ったら、駿が作ってた。
「あれ?ママは?」
「間に合わねーってこもったまま」
スープかな、お玉動かしてるのが見える。
「ごめんねやらしちゃって、すぐ着替えてくる」
「急がなくていーよ、もうできるから」
「ありがと」
ライターのママは、締切が重なると部屋から出てこなくなる。
それは身体に悪いから少しでも動け、って、あたしよりも駿の方がママに注意してくれて、ママは駿の言うこと素直に聞くから、どんなに詰まっててもご飯は一緒にリビングで食べる。
駿が作ってくれたスープをよそいながら、土曜に部活があるか聞いてみた。
「こないだの雪でグランド状態わかんねぇから、なし」
ほんと?ラッキー!
「そうなんだ、そしたら」
出かけない?って言いかけたらママが来て、疲れた顔してるけど、いい匂い~って少しホッとして見える。
「だいじょぶっすか、無理したらまた傷めちゃいますよ」
「ん、首肩がちがち」
ママが言うと、駿がママの肩をもんで、こってますねぇって息子みたい。
「駿ちゃんってほんとお料理上手ね、ありがと、助かった」
両手を合わせてごちそうさまをしたママは、ごめん、片付けお願い、と言ってまた部屋へ。
「ライターって家でできっからラクそうだけど、大変だよな」
「締切終わるとママ、ぼろぼろだもんね、駿のおかげでほんと助かったよ、おいしかったし、ありがとう」
「世話になってるし、こんくらい…てか俺、料理好きみたいだぞ」
「おいしいもん」
あ、っと、笑ってる場合じゃなかった。
「瑠羽、さっき言いかけたのってなに」
うわ、駿、覚えててくれたんだ、嬉しい。
「んっとね、部活ないんなら、出かけないかなーと思って」
「どこに?」
「水族館、とか」
駿とふたりで出かけたことは何度もあるから、出かけたことのない場所で、多少寒くても楽しめそうな、できればデートっぽい非日常間の空間…で、舞衣と思いついたのが水族館。
「水族館か、しばらく行ってねぇな、いいよ」
ふーっ、OKもらえた、よかった…
「で、誰と行くの」
え?
「俺と瑠羽と、他には?」
ねぇ駿、土曜日ってバレンタインだよ、なんでそうなるの…
やっぱり脈なんか全くなし、ってことかぁ。
「あたしとふたりじゃ、だめ…?」
雪の日に手をつないだけど、駿には特別な感情がなかったってこと、これでもうわかってしまった。
「全然?ふたりの方がラクだよな、せっかくなら開園に合わして行こ」
あたしのフクザツな気持ちなんてわかってないんだろーな、駿はぱくぱく食べてる。
「あ、うん、いいよ、あっ、あのさ」
「ん?」
「現地で待ち合わせ、しない?」
その方がよりデートっぽいよ、と舞衣に教わったように聞いてみる。
「え?同じ家から同じとこ行くのになんでわざわざ?めんどくさくね」
あっさり却下。その方がデートっぽいから、なんて言えるわけもなく
「たまには気分かえて、とか思ったけど…」
うまい言い訳が思いつかない。
「いーじゃん、家から一緒で」
「うん、だよね、じゃ、土曜日よろしくね」
「ん、楽しみにしてるわ」
デートっぽかったら緊張しちゃうから、少しでもデート感ない方が気楽かな、もうデートでもなんでもないただのお出かけだけど、と思いながら洗い物して、そのままあたしの部屋でふたりで勉強。
その間に舞衣から連絡が来て、経緯を伝えると
<出かけたらたぶんデート感薄れるから、ちょっとでもデート感出したかったら別々に行く方がいいのに…ま、仕方ないか>と舞衣。
ねぇ舞衣、駿には特別な気持ちがない、ってこと、もうわかってしまったんだけど。
最初のコメントを投稿しよう!