雨には縁がある

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 店から駅までは徒歩3分ほどだ。ゆっくりと、まわりで酔っ払って楽しそうに談笑している人たちの輪を見て、いいなと思う。ああいう仲間が欲しい。会社では、真面目くんで通っているから仕事上の話しかしない。雑談もそこそこに、みんなそれぞれ気の合う友達と話に行ってしまう。僕はぽつんと取り残されるだけ。それが寂しくてしょうがなくって。今日も夜な夜な街を練り歩いていた。 「あ」  今日は朝から曇天だった。ぽつぽつと、雨が降り始めてきた。すぐにざあざあぶりになってしまった。僕は雨は嫌いじゃないけど、スーツが汚れたらいけないと思って、視界に入ったバーに飛び込んだ。  シックで落ち着いた雰囲気の店は、外の雨などお構い無しで時計を刻む。マスターと思しき初老の男性が、グラスを丁寧に磨いていた。店内の人は、外で雨が降っているのに気づいていないようだった。僕は、何も考えず雨宿りのために入店してしまったが、1杯くらいは何か頼んだ方がいいだろうと思って入口からいちばん奥にあるカウンター席に座った。バーに入るのは、実はこれが初めてだった。大人の雰囲気に気圧されて、大学生がどんちゃん騒ぎをしていたり常連さんがわいわいやっている居酒屋しか行ったことがない。まあそれでも、声はかけられたことないけど。  何を、どうやって注文したらいいか戸惑っていると、2つ隣の席に座っていた男性が「あの」と声をかけてきた。 「この店、初めてかな?」  バーの店内が暗かったせいで、入ったときは気づかなかったけどすごく顔が整っている人。眉はきりりとしていて、その下にある瞳は力強い。一瞬でDomだと理解する。 「はい……恥ずかしながら、注文の仕方がわからなくて」  ふ、と男性は笑みを浮かべた。目の横にしわができる。笑いじわだろうか。とっても、優しそう。 「俺と同じのを頼んであげるよ。町丘さん、彼にギムレットを」 「はいよ」  マスターはグラスに液体を注ぎ出した。その間、男性は僕のことをじっと見つめる。
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