吞兵衛、夏凛の酔いどれ探偵、捕り物控  猫飼村 殺人事件

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それは、2段重ねで高さが30センチ 以上あるだろうか、直径が20センチ 位の筒状の物だった。 下の筒は黒く焼け焦げた様な状態に なっていて、上の筒も煤で黒くなっていた。 「探偵嬢ちゃん、これと同じものが 納屋の奥に沢山あるから、それを 全部ここに持ってきてくれ」 きんちゃんじいさんが私に言った。 「あんちゃんは、この七輪で火を起こして ここにある、炭に火をつけてくれや」 そこには、大きな七輪が1つ置いてあり あの、穴がたくさん空いている、 練炭という物が三角状態で3個七輪の網の上に 乗っていた。 ダブルじいさんは、2人でどこかに 消えて行った。 私は言われた通り納屋からその不思議な形を した物を全部持ってきて、それは合計 10個程あった。 かっちゃんは七輪の火おこしをやっていたが どうやら無事に火がついて炎が 下から練炭を炙っていた。 練炭に火がつきかけてきた頃 きんちゃんじいさんが、一升瓶を大事そうに 3本抱え、猫飼じいさんは大きな袋を 2つ両肩に背負って私たちの所に 戻ってきた。 「おっ!炭に火がついたな」 そう言いながら、一升瓶を静かに下におろし 練炭が乗っていた網を七輪からおろし 七輪の中に練炭を逆さにして3個とも 入れてしまった。 その上に網を戻し、今度は豆炭を 網の上にばら撒いた。 豆炭に火が次々に着いていく 火がついた豆炭を不思議な形の入れ物の下に 入れて行った。そうして全ての入れ物に 火がくべられた。 きんちゃんじいさんが、先ほど大きな瓶から 出していた木を、入れ物の上の筒の中に いれていった。 そして、猫飼じいさんが一升瓶の中の とろみのある液体を注いでいた。 全ての入れ物に入れ終わると 「よし!これであとはいぶし液が 煮上がるのを待つだけだ。 豆炭にき〜つけろ、火がなくなる前に 豆炭をくべていくんだ。 臭いが段々と変わってくる、そしたらば 行動開始じゃ!このリヤカーに乗せて 出発じゃ」 入れ物の中の液体が沸騰してきたらしい すると、先ほどまでの強烈な悪臭が 消えて、甘い香りというか先ほどとは 全く違う匂いになってきた。 ここまでの所要時間は、だいたい3時間程 時刻も、ちょうど12時になった所。 「よし!いぶし器をリヤカーに積んで 急いで、村長さんの家まで行くぞい!」 いぶし器の上の筒から白い煙が出てきた。 ほんのりと甘い香り、とてもいい匂いだ。 リヤカーが元村長さん宅に到着。 きんちゃんじいさんがひとつずつ通路脇 に置いていく。筒の中からは激しく白い煙が 出ている、縁側の所までいぶし器を並べて いきなりダブルじいさんが雨戸を外して しまった。 見る見るうちに全部の雨戸を外し 部屋の中が見渡せるようになった。 「探偵嬢ちゃん、好きなだけ調べろ」 きんちゃんじいさんが言ってくれた。 私はポケットからウヰスキーの小瓶を 取り出しおもむろに一気飲みした。 捜査をする前の私の儀式だ。 ウヰスキーの香りと喉の熱い感触が 私の全ての感覚を研ぎ澄ましてくれる。
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