『なんでも屋の少年』

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『なんでも屋の少年』

黒田さんと井澤さんが合流してそろそろ1週間くらいたつ、数件の事件も解決して忙しくなるかと思ったら・・・・ 意外と暇だった。 人間が悪人ばかりじゃないように、と言うか多くの人が善良な市民のように『まるア』アンドロイドだって同じだった。アンドロイドだからといってその能力をみんなが悪用するわけではない。むしろその能力を隠すように慎ましく生きている方が多かった。 「暇ですね・・・・」 思わず心の声が出てしまった。その声が隣の席の井澤さんに届いていた。 「まあ、暇ってことは犯罪がないってことで良いことなんじゃないんですか?」 そう言いながら、井澤さんはパソコンのキーボードをものすごい速さで叩いていた。 「何してるんですか?」 「うん、データの分析。今までの犯罪の傾向とか、リストのデータを照合して、気をつけなきゃいけないレベルをラベリングしてみようかなって」 「この『危険度』とは別にですか?」 「だって、これ単純に能力の値でしょ?黒田さんの『X』はちょっとウケたけど笑」 「今の生活環境とか、まあ、犯罪歴があればわかりやすいけど、何か事件が起きた時にピックアップしやすいように。ちょっとラベリングやランク付けするのは気がひけるんだけどど・・・」 「まあ・・色眼鏡で見るようなもんですもんね・・・」 「うん・・・ちょっとあれだな・・・しょうがない・・峯田に相談するか・・」 井澤は立ち上がり 「係長、ちょっと『@』のことでサイバーに相談に行ってきます」 「はい、よろしくね〜」 「あっ僕も行きます」 井澤と坂本が部屋から出ていくと入れ違いで一人の男が入ってきた。 「こんちは、今日からお世話になる柏崎っす、よろしく」 柏崎と名乗った男は、180cmくらいの長身だが、石丸とは違ったスリムな体型、開衿のYシャツに、ストライプのジャケット、そして・・・綺麗なリーゼントをしていた。 『まるア』というかはどちらかというと『まる暴』って感じの出立ちであった。 「あー、今日だったね、よくきてくれたね〜柏崎くん。今2人席を外してるから自己紹介は後でってことで・・柏崎くんの席そこね、一番奥、隣の席が黒田くん、その隣が石丸くん」 『よろしくお願いします』 「はーい、ああ・・お二人は自衛官と区役所の人ね、よろしくよろしく」 「柏崎くんそのパソコンセットアップしておいて」 「え?セットアップ?めんどくさいなぁ・・・・何、このダサい時計つけなきゃいけないの?」 柏崎はブツブツ文句を言いながら、セットアップを始めた、左手には金色の高そうな時計をつけていたので、右腕にスマートウォッチをつけた。 「はい、終了」 柏崎はセットアップを終えるとノートPCを閉じ黒田の方を見て。 「何やってんすか?」 「いや・・・この『@』のデータを見たり・・・あと今日の晩飯どこのラーメン食べに行こうかなぁ・・・って・・・」 「暇なんすか?」 「ええ・・今特に捜査がないんで・・・・」 「・・・・・まあ・・そうか・・・おし、黒田さんだっけ?一緒に出かけようか」 「え?どこにですか?」 「まあまあ」 「じゃあ自分も」 「あーーーー・・・・石丸さんだっけ・・・・えーと、今日はいいや、また明日にでも」 「え?そうですか・・・」 「ごめんね、石丸さんちょっと顔が怖いからさ・・俺と二人で歩いていたら明らかに目立つでしょ?」 「・・・・・・・」 『あなたも十分見た目は怖いんだけど・・・・』 黒田はそう思ったが、口には出さずに飲み込んだ。 「じゃあ、係長ちょっと出てくるわ」 「はい、行ってらっしゃ〜い」 柏崎は黒田を連れて部屋を出ていった。 「どこへ行かれたんですかね?」 「うーん、パトロールじゃない?柏崎くんは唯一の刑事だからね、色々教えてもらうといいよ」 「はい、そうさせていただきます」 「石丸くんさ・・・やっぱ坊主頭がよくないんじゃないかな?」 「え?そうですか?色々楽で良いんですが・・・・」 「髪伸ばして見たら?少し怖さがなくなるかもよ」 「そうですか・・・検討させていただきます」 石丸はネットでヘアスタイルの検索を始めた。 柏崎と黒田は電車に乗っていた。 「どこに向かってるんですか?」 「うーん、とりあえず歌舞伎町」 「歌舞伎町・・・怖そうっすね・・・」 「あはは、そう?あのさ、俺たちは暇なの良いことなんだけどさ」 「はい、そう思います」 「暇だからって、部屋に閉じこもっててもね・・・他にもやれることはあるからさ」 「そうなんですね・・・」 「うん、まあさ、日本一の繁華街でさ、犯罪も多い。暇だったら見回りをしてなんか未然に防げるなら、そりゃそれで良いことっしょ」 「なるほど・・全然思いつかなかったです」 「まあ、単純に机の前でパソコンに向かっているのが性に合わないっていうのもあるけどね」 新宿駅を出て歌舞伎町に向かった、『歌舞伎町一番街』と書いてあるアーチの前に着くと 「わぁ、TVや映画でみたことあるやつだ」 「ははは、初めてきたの?」 「ええ、なんか感動ですね・・まあでも、なんか歩いている人は思っていたより普通ですね・・もっとヤクザが歩いているのかと思ってました」 「まあ、まだ昼間だしな、あと映画みたいな明らかに『ヤクザ』みたいな輩はそんなに見かけないと思うけどな」 『今俺の視界に入ってる人で、一番それっぽいのは柏崎さんだけどね・・・』 黒田はそう思ったが、声には出さずにおいた。 柏崎は歌舞伎町を颯爽と歩きながらどこかに向かっているようだった。 「最近のこの先の広場に集まってる若者たちがいるらしくってな」 「ああ、ニュースでみたことあります」 「俺も別に詳しくはないんだけど、そういうところにいるんだよね」 「いる?」 「うん、野良犬みたいな『まるア』君が」 「野良犬?・・・・」 「・・・まあいいや・・ほらあのジャージ着てる座ってスマホいじってる子」 「ああ・・・確かにそうっすね」 アンドロイドにもいろんなタイプがいた、黒田や石丸は運動能力、戦闘能力が高いタイプだった。井澤や坂本は、高度のAIでのデータ分析、センサーやレーダーでの分析、センシング能力が高いタイプ。黒田もセンシングができない訳でもないが、かなり強い反応を発しているアンドロイドじゃないと認識はできなかった。柏崎は黒田よりも早く、少年を察知できることで、柏崎の能力はセンシングも高いということを黒田は感じた。 「どうします?話しかけます?」 「いや、いいや、動画撮っておいたから後であのメガネ君たちに分析してもらおう」 「メガネ君・・ああ、井澤っすね」 「あいつ、結構すごいでしょ?」 「どうなんですかね・・・ずっと一緒にいたんでよくわかんないです」 「あっそ。じゃあさ・・・黒田さん・・なんかあれだな・・黒ちゃんって呼んでいい?」 「あ、はい、もちろん」 「黒ちゃん、ラーメン好きなんでしょ?近くに俺のおすすめあるから食べてから戻らない?」 「マジっすか?行きます、行きます!」 黒田と柏崎はラーメンを食べて、署に戻った。 黒田は柏崎は見た目とは少し違う印象を受けていた。 失礼だが『思ったより良い人そうだな』と
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