プロローグ『まるア』

1/1
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ

プロローグ『まるア』

警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課の中に一つのチームが作られた。 まだ正式名称はない、通称は『まるア』 正規ではない呼称は「対アンドロイド犯罪対策チーム」だった。 社会に紛れているアンドロイド犯罪を専門に行うチームだが、なぜ正式名称がないかと言うと、国家、政府がアンドロイドの存在を認めてはいるが、そのことを公表していないからだ。 どうやら、専門機関が研究を続けていて、発表の機会はその機関との相談によって決められる事になるらしい。 その時を見越して『警視庁内にも専門部署を作る』準備としてこのチームは結成されたと言われている。 近々この国はアンドロイドの存在を公表することになるとはずだ・・・が・・・ その近々が・・・このチームの構成を見る限りそんな近い未来じゃないような気がしている。 俺は、坂本龍二、元鑑識官だ。 今回『まるア』結成の為、サイバー犯罪対策課に異動になった。 分析能力に優れたアンドロイドらしく、センシングが得意だ。 見たり触れたりすることで、データ分析をすることができる。 もちろんその力は鑑識でも十分に発揮していたと思っていたが、今回「まるア」に異動となった。 俺はこのチームに配属されると聞いた時嬉しかった。 特殊任務、選ばれし者の1人に選ばれたんだと思っていた。 警視庁内にもアンドロイドがいるとは聞いていた、捜査一課や公安、機動隊などに所属している優秀なアンドロイドが集められると思っていたからだ。 しかし、実際に辞令を受けてみると・・・ 元総務課課長の南田さん、元少年育成課の北野さん 現状3名しかいないチームだった。 しかも、南田さんも北野さんも元課長・・・異動にあたり課長から係長・班長に降格していた・・・これは・・・署内左遷?・・・・ もちろん3人だけのチームなんてありえないので、他警官の配属されると思っていた。 警視庁の中の警官が・・・ 異例の人事だった、1人は神奈川県警から異動、もう1人は自衛隊、さらに地方公務員が2人配属されるとことだった。異例すぎるというかこんなことできるのか? ただ、地方公務員の1人は上層部がかなり無理をして引き抜いたという噂があった。 もちろんこんな特例を使って呼び寄せた人材だから、全員優秀なアンドロイドなのだろう。 そう信じよう・・・そうでなければ、おそらくこの人事は俺にとっても署内左遷だ・・・・ 手続きに時間がかかっていて数日中に配属になるらしいのでしばらくは3人のチームだ。 もう一つ気に食わないことがある。この『まるア』と言う呼び方は、主に容疑者に使う物だった。もちろんアンドロイドを意味する物で、アンドロイドであろう容疑者を呼ぶときに使うのだが、署内の仲間に対しての蔑称として使われてもいる。 俺たちアンドロイドは、能力が高いので出世や昇進が早い、俺も異例の速さで鑑識官になった。 「あいつは『まるア』だしな・・」そんな妬みの。差別用語として使われている。 そんな差別を払拭できるんじゃないかって希望も持っていたが・・ このままだと「『まるア』の烏合の衆」と署内で呼ばれるだけになってしまうんじゃないだろうか・・・・ 「本日付で『対アンドロイド犯罪対策チーム』に配属された坂本龍二巡査部長です、よろしくお願いいたします」 俺は引越しの荷物を足元におき、北野係長も南田班長に挨拶をした。 「はい、坂本くんよろしくね」 「いいよ『まるア』で長いし笑」 北野係長と南田班長は暖かく迎え入れてくれたが・・やっぱり・・なんというか緊張感がない・・ 「あっ坂本くん、そのパソコン坂本くんのだから、セットアップやっておいて」 「まだ、人も集まってないから、今日の仕事はそれくらいかなぁ・・」 俺のデスクに真新しいPCとスマートウォッチ、セットアップの手順の書類が置いてあった。 ・・・最新のPCだな・・・しかも・・・かなりハイスペックなやつじゃないか? 「はい、わかりました」 「わからないことあったら、聞いてね。俺もわかんないかもしれないけど笑」 「どうする?やっぱ中華じゃない?」 「いやいや、肉じゃないかな」 北野係長と南田班長は俺にPCのセットアップを告げると雑談を始めた。 PCのセットアップって言っても・・・管理されたシステムにログインするだけだし、まあ最新のPCを支給されたのは嬉しいが、そんなもん5分もあれば終わってしまうんじゃないか? PCを起動すると、ログイン画面が表示された。IDとPWを入力してシステムを起動すると、真っ新なデスクトップに『@』のアイコンのアプリが一つだけ置いてあった。 『@』・・・・ああ『まるア』か・・・ アプリを立ち上げると・・・見たこともないログイン画面が出てきた。 IDとPWを入力すると・・・・ 『スマートウォッチを装着してください、データリンクを行います』 俺は支給されたスマートウォッチを手首に巻いた。 モニターに『データリンク中・・・』と表示され10秒ほど経つと 『データリンクが完了しました、スマートウォッチでデータ通信が可能になりました』 はぁ・・なんのデータを送れるのかよくわからないが、まあセットアップは終わったようだった。 『@』を開いてみると・・・ うん?・・・・・権限が・・・・ 今まで見たことないようなデータの閲覧が可能になっていた。 『まるア』リスト・・・ 今までのアンドロイド関連の事件が全て掲載されている・・・・ 『まるア』と認定されている人物のリストも載っていた。 ・・・・・・・・・・ 割と・・・いや、かなり衝撃的な内容だった。 思ったより『まるア』関連の事件は多かった、世間を騒がせた大事件の犯人も『まるア』だと書いたある・・・ もっと驚いたのは、人物リストだ。 政治家、資産家、有名企業の社長、重役、タレント、俺が思っていた以上に世の中には『まるア』は多かった。 「あの・・・すみません・・・」 「あっセットアップ終わった?じゃあさ、一通りファイルとか見てみて、多分権限が変わってるから、色々見れるはずだから、一通りみたら声かけてね〜、歓迎会行こう!!」 南田班長は、軽いノリで話しているが、これ・・・ 俺はデータに目を奪われていた。 このファイル閲覧権限をもらえるってことは、左遷かと思っていたけど、本当に期待されているのかもしれないな。 「坂本くん、なんか面白い資料でもあった?このシステム使いにくいところがあったら、サイバーの子に声かけてあげて・・なんて言ったけな・・」 「峯田さんですか?」 「あっそうそう、よくわかったね・・・」 「あっこの中のリストに名前があったんで」 「あ〜なるほどね、でさ、中華と焼肉どっちがいい?」 「え?」 「いや、歓迎会さ、中華と焼肉。どっちが良い?」 「えーと・・・そうですね・・じゃあ中華で・・・」 「あっそう、じゃあさ、定時になったら一緒に行こうか、明日配属の石丸くんも顔出せるっていうから、今日は4人で」 「はい・・・」 どうもあの2人と話すと少しリズムが狂うな・・・ 定時まで少し時間がある 俺は『まるア』の人物リストをチェックすることにした。 『石丸剛志・・・柏崎陽介・・・・井澤孔明、黒田玄と・・』 さっき見て気になっていたのだが、項目の『危険度』・・ おそらく敵に回したら、というか犯罪を起こした時の事を表しているんだろうけど 俺は・・・『C』井澤さんと柏崎さんは『B』石丸さんは『A』黒田さんが・・・『X』? 『X』ってどういう意味なんだ?どちらかに振り切れていることを表しているのだろうけど、どっちにだ?この人たちだよな、地方公務員からのって・・・ 『超危険人物』だから目に見えるところで管理しておきたいってことかな? なんにせよ・・怖そうだな・・・見た目は・・・そんなことはないけど・・・ 「坂本く〜ん、定時過ぎたよ、行こう〜」 北野係長、南田班長に連れられて中華料理店に向かった。 「来来軒」ああ、あの出前がクソ早い店か・・・ 店の前に物凄いガタイの良いスーツ姿の男が立っていた。 「あー石丸くん、ごめんねー呼び出しちゃって〜」 「お疲れ様です!!いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」 「まあまあ、とりあえず中入ろう」 4人で二階の円卓のある席に案内された。 「おねえさん、瓶ビール二本と・・・・あっ坂本くんも石丸くんもビールで大丈夫」 『はい』 「そう、じゃああとは・・・空芯菜炒め、エビチリ、麻婆豆腐、ピータン、あとは・・・」 「ああ、今日は二人の歓迎会だから、俺たちの奢りだから遠慮なくいっぱい頼んじゃって」 「はい、ありがとうございます」 北野さんと南田さんは、楽しそうにメニューを見ながらあーだこーだ話していた。 今日会ったばかりだけど、この2人めちゃくちゃ仲良いな。 ビールと、枝豆、ザーサイが届くと。北野係長が立ち上がり。 「えーと、坂本くん、石丸くん、ようこそ。二人は初対面だよね?軽くで良いから自己紹介してもらって良い?」 「はい、じゃあ自分から」 石丸さんはスッと立ち上がって自己紹介を始めた。しかし、立ち姿の姿勢綺麗だなぁ。 「石丸剛志と申します、前職はご存知だとは思いますが、自衛官をやっておりました。 警察官の経験はありませんので、日々努力をしていきたいと思っておりますので、御指導ご鞭撻のほどお願いします。」 「よろしくね〜、うちはさ、前いたところよりゆる〜いから、気楽にやって行こうね〜」 「はい、ありがとうございます」 「あれだよ?確かレンジャーだったんだよね?」 「はい」 「え?レンジャー?って、エリートなんじゃ」 「そうだよ、すごいんだよ、石丸くん」 「いえ、自分はなんかはまだまだです」 「いやいや、立派なもんだよ〜、じゃあ坂本くんもよろしく」 何というか、石丸さんの自己紹介は完璧な模範回答のようだったので、かなりやりにくいな・・・・ 「えーと、坂本龍二です、異動前は鑑識にいました。そうですね・・・データの分析とかが得意なんで、その辺でお役に立てればと思っています」 「坂本くんも優秀なんだよね〜、確か最短で上級受かったんでしょ?」 「ええまぁ・・・得意というか・・それをするために作られたようなものですし・・・」 「じゃ自己紹介も終わったし、食べて食べて」 北野さんはそう言ってまた、南田さんと楽しそうに雑談を始めた。 「坂本さん、よろしくお願いします。右も左もわからないので、ご迷惑をおかけすると思いますが」 「いえいえ、僕も鑑識以外の仕事なんてほとんどやったことないんで、同じようなものですよ、こちらこそよろしくお願いしますね」 「しかし、あまりにも環境が変わって戸惑ってます」 「そうですよね・・やっぱり基本は基地?駐屯地で生活していらっしゃったんですよね?」 「そうですね、自分は結婚していないので、宿舎で生活していました」 「でも・・・なんで警察官になったんですか?」 「はい、上官から声をかけていただいて。その上官をすごく尊敬しておりましたので、あとは、国民を守ることには変わりはないで」 「すごいなぁ・・・立派ですね」 「いえいえ・・それよりも・・・一応アンドロイドの為の部隊・・・いや、部署だとお聞きしたんですが、北野係長も南田班長もそうなんでしょうか?」 「ああ、そうですね、なんか・・・普通の人間よりもおじさん度高いですけど・・・」 「あはは、なんというか、温厚な方々ですね」 「僕も今日初めてお会いしたんですけど・・・ご本人も言ってましたが、かなりゆる〜い雰囲気の部署ですよ」 「それもちょっとなかなか慣れるまで時間がかかりそうですが・・・頑張ります」 石丸さんは、自衛官だっただけあって、少し堅い感じはしたけど、すごく優しそうな印象を受けた。他のメンバーはまだわからないけど、うまくやって行けるような気がしてきた。 俺たちは警察官らしく、歓迎会はさっくり1時間半くらいで終了した。 明日から本格的に仕事が始まる。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!