43 雷鳴(2)

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 坂を登る間にも空は不穏な暗さを増していく。 「俺、先に行くね」  佐良の手を離した碧が坂道を駆け出した。布団が干しっぱなしなのだ。  碧の背中が離れていく。ついて行くのは無理だ。坂道の半分を過ぎたあたりで頬にぬるい雨粒が当たった。所々雑草が顔を出すアスファルトがひとつまたひとつと水玉模様に黒く濡れていく。前を向くとちょうど碧が垣根の戸を開くところだった。  ようやく佐良が玄関に辿り着き、荷物を置いて手伝おうと振り返った時、碧が布団を抱えて駆け込んできた。どさりとあがり口に置く。背後でばたばたっと地面を叩く音がしたかと思うと、一気に土砂降りになった。 「間に合った」  碧は布団の上に手をついて息をつき、佐良が玄関の引き戸を閉めた。 「よかった」  碧が笑った。額に前髪が汗で張り付いている。 「片付けて、お茶飲もうか」 「うん。布団、奥の部屋に広げておくよ」  碧は先に玄関を上り、布団を抱えて廊下へ入っていった。佐良は買い物袋を台所に持って行き食材を冷蔵庫にしまい、代わりに取り出したペットボトルから麦茶をグラスに注ぎ居間に運んだ。  碧がグラスを受け取る。佐良も自分のグラスを口にし一気に飲み干した。 「結構汗かいたね」 「碧、シャワー浴びてきたら」  碧が意味を計るような視線を佐良に向けた。 「……そういう意味じゃないよ」 「ん。わかってる」  碧がテーブルに視線を落とし、また窓の外を見た。海も空も雨にけぶっている。水平線の際は明るく、その上は灰色の雲に覆われていた。遠く低い轟が聞こえ、碧が身構えた。 「カーテン閉めようか」  碧が返事をしかけたときに、空が光った。ほとんど間を置かず雷鳴が轟く。瞬間的に身を固くした碧に気づき、佐良は立ち上がり隣に膝をついた。碧を頭から抱きかかえた。ふたたび稲妻が光り、地を揺らすような音が響いた。  雨がいっそう強くなった。激しい水音が雨どいを駆け落ちる。碧は佐良の腕の中で。汗でしめる肌が佐良の腕に張りつく。 「俺、雷、本当に怖くて」  佐良にしがみつく碧の声はか細い。 「子供の頃この近くに落ちた」 「大丈夫だよ」
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