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遠く海上を稲妻が閃いた。いくつか瞬き、空全体が明るくなったかと思うと、光が一直線に海面を穿った。遅れて衝撃音が空気を震わせる。佐良は目を見張り、碧を強く抱きしめた。
海はなにごともなかったように霞む景色の向こうにある。しがみつく碧にささやいた。
「大丈夫、海だ。遠いよ」
碧が腕の中で小さくうなずく。きっと佐良の心臓の音は碧に聞こえているだろう。湿った肌が張り付き、碧の体温をじかに感じさせた。
雷鳴が遠のくにつれ碧の力が抜けていく。
雨音だけが残った。碧はまだ佐良の腕の中にいた。
「もう大丈夫だよ」
「佐良……」
佐良は腕を緩め、碧が見上げる。
唇を塞いだ。碧に緊張が走ったのがわかったが、そのまま口づけた。碧の手がシャツの袖を握る。かろうじて残っていたコントロールのできる領域が、踏み外さない程度にブレーキを踏んでいたが、止めることまではできない。抵抗が徐々にキスで溶かされていく。
「碧が欲しい」
潤む目を見下ろし、ふたたびキスをする。舌が深く潜り込み、碧が身体をわずかによじった。息を継ぐ間に碧の呼吸が甘く漏れた。キスを重ねながら服の内側に手を差し入れる。汗ばんだ肌が手のひらに吸いついた。脇腹を指でたどり、迷わず胸先にたどり着く。わずかに触れただけで小さく声が漏れた。指でつまみ捏ねると碧が絞るように喘ぐ。碧は目を固く閉じていて、佐良は手を引いた。
「碧、ごめんね。やめよう」
「待って」
身体を離した佐良のシャツを碧が掴んだ。
「したい」
碧はうつむいて口を小さく結び、怒ったような表情をしている。
「いいの?」
碧がうなずいた。
佐良は碧を上向かせ、薄く開いた唇にキスを落とした。角度を変え、何度も口づける。濡れた音が響き、身体の熱が増していく。Tシャツをまくり上げ、胸の先を口に含んだところで肩を押し返された。
「あ、でも、ま、待って」
まさか気が変わったのかと佐良が顔を上げると、碧が火照る顔で言った。
「シャワー、浴びたい」
「そうだね。……一緒に入る?」
「……佐良、先にどうぞ」
「……うん。そうするよ」
タオルと着替えを持ち、佐良は脱衣所へ向かった。
来ている服を脱いで籠に放り込み、大股で風呂場に駆け込みシャワーコックをひねる。まだ冷たい水を頭からかぶった。
「ほんとまずい、もう」
顔を勢いよく洗った。
またお預けをくらったのに、祭りでもきたみたいだ。
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