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 カン、カーンと会場となったホールに響き渡ったのは壇上に立つ黒い仮面の男が持っているハンマーの音であった。しかし人々は退屈のかざわざわと騒いでいる。しびれを切らした仮面の男はハンマーを何度も振り下ろし、五回目でようやく辺りは静かになった。  男は軽く咳払いした後何やら長ったらしい口上を述べている。けれどもそれを真剣に聞いている客は一人もおらず皆つまらなさそうに中には仮面の男を睨む者もいた。客として参加していた俺は早くこんなくだらないオークションは終わらないものかと苛立ちを隠せなかった。  このオークションに参加したのは今回が初めてであったが、以前からこれの存在は人づてに聞いてはいた。けれど仕事が忙しく参加することは難しかった。今日、会社の上司に無理やり連れて来られ渋々参加することになったのだ。オークションは会員制らしく、会員または会員の紹介が無ければ入ることが許されない。会員になるためには多額の金額を支払わなければならないと聞いていた。  俺の上司はオークションの会員の知り合いらしく以前から何回も参加していたようで会場の警備をしていた強面の面々は上司の顔を見ただけですぐに通された。今回俺は上司の荷物持ちという役割でオークション会場に入ることを許されたのだった。  取り扱っている商品は盗品、武器、薬物、希少な生物など表では禁止されているようなものこのオークション会場では出品されていた。生き物の中にはたまに隣国から無理やり連れて来られた人や密入国者もいるようで、金持ちがペットのように飼育されていることもある。 「ヒガタ、この後どうするかわかっているな?」  上司、いや所長の言葉に俺は頷く。俺たちがここに来た理由はいたって単純だ。このオークション会場をぶっ潰すことだ。違法な品物や人身売買が行われているこのオークションは問題となり主催者の拘束やオークション自体を潰すことを依頼され、俺たちは数ヶ月潜入していた。ようやく準備が整った、逃がすわけにはいかない。周囲の観客はこれから起こることを知らない。のんきに酒を飲みながら再びがやがや騒ぐ姿を所長は冷たい目で見ていた。
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