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「いやー、できれば会いに行きたくないっす」
「それはどうしてだ? 少し会話をしたが話は通じる、理性もあると思ったが」
ミルトが手加減しなくても戦うことができるような相手が見つかったものだからてっきり喜ぶと思ったのだが違うのだろうか。それに通信機器越しでの会話から戦闘のこと以外では意思疎通ができるためまだ楽な方だと思うのだが。
「何というか保護のためとはいえ卑怯なことをしてしまって申し訳ないというか」
とにかく会いにくいんですよ、と彼は言いきった。
「そこまで気になるなら素直に卑怯な手を使って気絶させたことを謝ればいい、それと2人で手合わせでもしたらどうだ? それなら相手も納得してくれると思うが」
受付で手続きを済ませそんな会話をしながら待っていると、暗い青の髪を持つ大柄な男が出てきた。彼はミルトを見つけると笑顔になりこちらに突進してくるような勢いで向かってくる。
「うわぁ、レヴィンさんだ」
俺を盾にして隠れようと考えているのだろう。けれどもバレていると思う。それに先輩を盾にするとはいい度胸だ。
「こうやって会って話すのは初めてですね。初めましてレヴィンさん、ヒガタです。後ろに隠れているミルトの上司です」
「ああ、昨日の…… 。改めまして、私はレヴィン。ええっと、どうしてミルトさんは後ろで蹲っているのでしょうか?」
彼は後ろになぜか隠れているミルトに戸惑っているだけで昨日のことなど根に持っているようではない気がした。
「何でも昨日、あなたを卑怯な手を使って気絶させたことを後悔しているようでして、合わせる顔がないなどとあなたが来るまでの間ああやってうじうじとしていたのですよ。キノコが生えてきそうなくらいだ」
「謝るのはこちらの方です。その昨日は救護のために来てくださった方々を気絶させてしまい申し訳ありません。あの時はまだあなた方のことは信じておらず、またどこかで馬車馬のように働かせられるのなら脱走して自由になりたいという気持ちが強くあのような暴挙に出てしまったのです」
まあ、以前別の任務で保護した人の中にはレヴィンのようにパニックになりこちらを襲ってきたりひどい場合は死のうと首を自分の首を切りつけたりする人が少なからずいた。そのため彼の反応は珍しくはない。
「あ、レヴィンさん本当に怒ってはいないっすか」
俺の後ろから恐る恐る出てきたミルトが尋ねる。
「はい、怒ってはいませんよ。ミルトさん、それよりも一度手合わせをお願いしたいのですよ」
なあ言った通りだろう、とミルトの背を叩き、行ってこいと言った。
「はい、行ってくるっす! あ、レヴィンさんこっちです!」
2人はグラウンドというには小さいが外にある運動スペースへと走っていった。
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