3

3/11
前へ
/98ページ
次へ
 あのときだって危機的な状況であった。だから、あの銃弾だって避けることができたはずだった。  奴がいなくなって数日、奴の部屋で1冊の日記が置いてあるのを見つけた。どうやら彼は日記をつけていたようで彼にそんな習慣があるとは知らなかった。勝手に読むことはいけないとは思いながらももしかすると死んだ原因がわかるかもしれない、一体何が彼をそこまで追い詰めたのか気になったのだ。  最初の十数ページは特に特筆するようなことは書かれていなかった。任務がどうだったか、訓練がどうだったかというその日の出来事についてまとめたごく普通の日記であった。収穫はなさそうだと日記のページをめくっているととある日付のページが目に留まった。確かその日は戦闘が激化している市街地への進軍で、こちら側は大した被害もなく制圧することができた。  ただ戦場となり破壊され瓦礫となった住宅街から時折聞こえるうめき声が聞こえてくる。わずかに息はあるものの助かる見込みのない人、その周辺で必死に呼びかける人など悲惨な光景が目に広がっていたことは俺も覚えている。彼の日記にはそれが頭では理解しているはずなのに理解しがたい光景であったことが書かれていた。  口を押え胃からこみ上げるものを堪えていたが隣を見ると平然として立っている同僚の姿があった。僕はそれが心底恐ろしく感じたのだ。  その日の日記はこんな文章で終わっていた。ここに登場する同僚とはきっと俺のことだろう。あのとき彼の隣に立っていたのは俺と上司だけであったから俺のことを指しているとすぐにわかった。この日から日記の内容はどこかおかしくなっていた。  
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加