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 人が死んでいっているというのに感情の無い表情で見ていること、敵国の兵士に動くなと発砲されても平然とした顔で兵士たちを制圧したこと……。同じ人間であるはずなのになぜか彼が機械でできた兵士なのではと思えてしまう。そんな同僚を上司たちは褒めたたえていた。  ゆっくりと進む世界の中で見る死ぬ寸前の彼らの表情が脳裏に焼き付き離れない。何人もの顔が僕を監視している。昨夜は銃声の音が頭に響いて眠れなかった。正義のため、これは正しいことのはずなのに罪悪感に苛まれている。  日記の文章は初日の方は嬉しい、疲れたなどの彼が感じた感想が書かれていた。だは次第に彼が目の当たりにした惨状、彼の苦悶が書かれていた。  楽になりたいこんなモノさえなければ今頃は、  最後のページ、死ぬ前日の言葉だ。もし彼がここに来なければ能力さえなければもっと違う人生を歩んでいたのだろうか? そこまで考えたところでもう終わってしまったことだと俺は頭を振った。日記を閉じ元の位置に戻そうとすると小さな紙切れが落ちてきた。拾い上げるとそれはメモ書きのようだった。表面には俺の名前がありこれが俺に関することが書かれているのだろう。  いつも冷めた目で戦場を見ていた。悲惨な光景を目にしても表情を一切変えず見ていられることは理解しがたいものであった。俺は人間だ。裏でロボットだの殺戮マシンだと呼ばれているお前とは違う、人間なんだ。でもお前のようになりたいとは思わない。  俺は人間だ。  裏面の文章を読んで何とも言い難い気持ちになった。自分が他の同期たちから遠巻きにされていたのは知っている。奴だけが俺を普通の人間として接してくれていたと思っていたが違ったようだった。  だが、裏切られて悲しい、俺をだましていたのかと落胆のような感情は湧かなかった。彼と過ごしてきた時間の全てが偽りであったわけではない。それに俺にくれた優しさは本物であったと信じているからだ。 こうしていれば良かったと彼がおかしいことに気がついていたら後悔することはあるが、今まで進んできた道があるから今の自分がいる。 「今度墓参りにでも行こうと思います」  過去のことを思い出しているとふとそんな言葉が口から出ていた。奴は俺に来てほしくないだろうと思い行ったことは無かったのだが一度くらいは挨拶しておこうとふとそう思ったのだ。 そういえば、奴は甘いものよく好んでいた。今度クルハに最近流行している菓子パンについて教えてもらおう。奴の好きそうなものさえ置けば墓参りくらいなら許してくれそうな気がした。 「そうするといい、それで時間は大丈夫なのか?」  所長に言われ時計を見ると待ち合わせの時間が迫っていた。遅刻して待たてしまうのはまずいと思い事務所を出た。
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