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「さて、初めの商品はこちらでございます」  仮面の男が言い終わると同時に舞台の端から一人の男が複数人の男に引きずられてやってきた。青みがかった暗い髪と目を持った男であった。かつて隣の国にいたといわれる民族の特徴と一致している。  4年前まで続いていた戦争によって隣の国は壊滅的な状態になり絶滅寸前だと聞いていた。この男は無理やり捕虜として連れて来られたのだろうか。  肌寒くなってきたころだというのに男は袖のない薄い服のみでどれほどぞんざいな扱いを受けてきたのか誰が見てもわかるくらいだ。  手首には手錠が繋がれ足には重りのようなものが付けられていた。 手錠に繋がれていた鎖を引っ張られ男は地面に倒れる。それを見た仮面の男は笑いながら早く立てと言い、男の身体を蹴っていた。  会場にいた参加者たちも笑い声をあげ会場内に反響していたが少しも笑えなかった。苛立ちを抑えようと握った手に爪が食い込み跡になっていた。男に対して早く助けに来られなかった申し訳なさと何があっても絶対に助けてみせると強く思った。 「ヒガタまだだ。気持ちはわかるが我慢しろ」  隣の席にいた上司が小さな声で諫める。わかっていますですが、と言ったものの抑えられる気がしなかった。 「これは、2年ほど前に捕らえた兵士でございます。先日までとある人物が所有なされておりましたが訳あって売却されることになりました。召使いとして働かせるも、これどうするかは落札された方の自由にしていいと言伝を承ております」  ステージの上にいる男は衰弱しているのか立っているのもやっとの状態であった。 「これが衰弱しているのには理由がありまして、ここまで弱らせなければ運搬できなかったのです。これは厄介なものを持っておりまして、なんと刃物を刺そうとしても刃物が曲がってしまうほどの頑丈な体であります。」  男は観客に見せびらかすように何かを取り出した。目を凝らすとそれが刃先があり得ない方向に曲がった刃物であることが分かった。ぐにゃりと溶けた飴のように曲がっていて人の力では到底できそうにないものだ。曲がった刃物が見える前列の観客たちはざわざわと騒ぎ困惑しているようにも見えた。 「檻を破壊され脱走してしまう危険があったため、仕方なく衰弱させたのです。暴れたときにはガスやスタンガンで動きを鈍らせるといいでしょう」  とても気分の悪くなるような話だ。不快感がこみあげてくる。上司を見ると目を閉じ顎に手を当てながら難しそうな顔をしていた。あの衰弱した男の処遇のことだろうと俺はピンときた。能力者であるという情報は上司も知らなかったみたいだ。  ここ数十年の間にごくまれに人並み外れた力を持つ者が生まれてくることがあった。例えば、人並外れた怪力を持つ者、未来を予知する者など様々だが国から異能と認定された者を世間は能力者と呼んでいる。  昨年の調査ではこの国には百名ほど存在しているということが公表された。聞いたところによると、能力を使い犯罪を犯さないために、反対に迫害され危害を加えられないよう不定期に監視がつくことがあるそうだ。  外国にもそのような能力を持つ者はいるとは知っていたがまさかこんなところで会うことになったとは。ステージの上で虐げられている彼を見て彼は保護されてからどうなるのだろうかと考える。
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