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 時計を見ると午前6時30分。もう少し寝ていても問題ないが部屋の中にいつもとは違う匂いが漂っていることに気づき目が覚めた。 「ヒガタさんおはようございます。朝食作ったので食べてください」  薄緑色のエプロンをしたクルハがキッチンに立っていた。いつもはオートミールと野菜ジュースで済ましていたため朝から白い皿が並ぶ光景は照明以外の何かで輝いているように見えた。 「冷蔵庫にあった野菜や食品を勝手に使ってしまってすみません。あとで買い足しておきます」  申し訳なさそうな顔をしているが別に怒っているわけではない。朝からこんな手の凝った食事を作ってくれたことにこちらの方が申し訳ない気持ちになる。  しかし誰かと一緒に朝食を食べるのは軍にいたとき以来だろう。あの頃は同期がもっと食べろと俺の少なすぎる食事量にいちいち文句をつけていた。  初めはどうしてそこまで口出しするのかと鬱陶しさを感じていた。あの軍で俺個人のことを考えてくれる人は少なく、そして貴重な存在であったと気づいたのは失ってからであった。  口うるさい同期もいなくなってしまいそれからは後輩であるミルトに誘われる以外はずっと1人であった。出来立てが1番おいしいですよ。クルハの声で過去のことを思い出すことを止めた。目の前に座っている彼を見ると笑顔で盛り付けをしていた。机には目玉焼きとハムが乗った皿が置かれていた。起きたときから充満していた少し焦げた肉の匂いのせいで空腹であった。  一口食べうまいと漏れた言葉にクルハはそれは良かったですと嬉しそうに笑みを浮かべていた。クルハとの朝食は軍にいたときとは正反対の静かな食事だが、先輩からとやかく言われていた時と同じような和やかな食卓になっていた。 「洗濯は機械の操作がわからなくてできませんでした」  ですから洗濯のほうをお願いしてもいいでしょうか? 食後、食器を洗おうと流しに食器を持って行こうとしたところをクルハに止められた。彼曰く機械だけは不慣れで説明書さえあれば問題ないらしいが生憎説明書がどこにあるかわからず、壊してしまうことを恐れ触らないでいたようだ。  朝食を作ってくれただけでありがたかったためそこまで客人にさせるわけにはいかない。洗濯するものはもう洗濯機に入れたか確認し洗濯機のスイッチを入れた。  洗濯機のタイマーが鳴った頃には眠気も消え去っていた。それまでの時間は久々に部屋の掃除をしていた。普段中々掃除をする気にならず部屋に散乱していたごみを一つに纏め終えたところであった。いつも通り洗濯籠に移そうとするが、人一人増えた分多くなった洗濯物を一回で運ぶのは難しそうであった。 「クルハ、すまないが手伝ってくれ」  キッチンにいるはずのクルハに向け大声で呼ぶとスリッパを履いているときのパタパタという独特の足音が近づいて来た。 「ああ、洗濯物…… 。どこに運べばいいですか」  洗濯籠に入り切らない洗濯物を見てクルハは察したようだった。 「ベランダに持って行く物干し竿があるからそれに干すのを手伝ってくれないか」  籠に入った洗濯物を持ったクルハと共にベランダへ出た。 「上着を貸してもらったときにも思いましたけどヒガタさんの服って大きいですね」  俺の服をハンガーに通しながらクルハは言う。身長と体の厚みによって普通サイズの服を着られないため服のサイズは大きいものになってしまう。一般の平均身長よりやや低く普通サイズでも余裕ができるクルハからするとそう感じるのも無理もないことだ。 「そういえばヒガタさん、いつもお昼ごはんってどうしていますか」 「大体は出来合いの物を購入したり忙しいときはゼリー飲料で済ませたりしているな」  健康に悪いのは理解しているが夕飯とは違い作っている時間がない。 「毎日そんな昼食で不健康になっても知りませんよ」  とラクトは毎日昼食になると俺の昼食に文句をつけてくる。自覚もあるため改善したいとは思っているのだがなかなか難しいものだ。  一人暮らしになってからいつも料理を作っていた母親の大変さが身に染みてわかった。 「そうだろうと思いました。お弁当作ったので持って行ってください。はじめ、弁当箱ないかと思って焦りましたよ」  キッチンに行くと昔くじ引きで当たった弁当箱がテーブルの上に置かれていた。近くには保冷材の入ったバックがありこれに入れて持って行けとのことなのだろう。使わないからと戸棚のかなり奥の方にしまい込んでいたはずなのによく見つけられたなと感心する。 「それじゃあ僕は時間なので」  パン屋は仕込みなどの準備があるためか俺よりも早くクルハはここを出ていこうとする。玄関にいた彼に少し待てと引き留め、靴箱に置いていた一回も使ったことのない合鍵を渡した。 「洗濯ものもあるし、俺が留守にしているときでもいいから都合のいい日に取りに来い」  わざわざ俺に連絡しなくても好きな時間帯に取りに来られるようにと思い彼の手に特徴的な形をした金属を乗せる。さすがにクルハはそんなことはしないだろうが特に盗まれて困るようなものもない。そう思いカギを渡したのだが、クルハはどこか不安そうに僕が持っていてもいいのかと聞いて来た。  俺は一人暮らしだし、ほかに家に入れたり合鍵を渡したりするような奴はいない。だから持っていても大丈夫だと説明すると嬉しそうに感謝の言葉を述べたのだ。 「仕事頑張れよ」  玄関のドアを閉めるクルハは驚いたような顔をしていた。今朝まで彼を泊まらせたが、彼は他人に対して気を使いすぎなのではと心配になってきた。もう少しわがままを言っても罰は当たらない。そこまで献身的にならなくていいはずなのにクルハの性質なのだろうか。考えていると俺も通勤時間となったため家を出た。
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