29人が本棚に入れています
本棚に追加
「その人は運がよかったですねえ。信頼できる人が周りにいて」
「そうだな、保護施設にいている間は上着を貸してほしいと言われなければ気にすることさえなかったかもしれない」
ラクトは何が気に入らないのかさっぱりわからないが少し馬鹿にするような口調で言う。言いたいことはわかるのだがその言い方は少し頭にきた。
けれどもここで怒ってしまえば彼は更に馬鹿にしたような言葉を使うだろう。だから俺はなるべく冷静になって答えるよう努めた。
「きっと庇護欲のようなものが湧いたのだろう」
クルハが上着を手放したくないと抱きしめていた時のことを思い出していた。素直に渡されていたら交流はつづかなかっただろうし、彼のことも数日で記憶から消えていたと思う。
「へー、ヒガタさんって自分よりうんと年下の人に甘いですね。最近は私にはそっけないのに」
「お前だって俺より一回り以上年下だろう。嫌味を言ってきたり変に突っかかったりするから対応が面倒になる」
先ほどから怒られたいのかと思うような言動ばかりだ。言わないよう自制していたつもりであったが最後の最後で言ってしまった。
以前、職場の女性たちが彼氏にしたい事務所の男たちについて話していたところに遭遇したことがある。その中でラクトは束縛が強そう、恋人ができたら執着しそうと話されていたことを知っている。
実際はどうなのかはどうでもいいのだが、その話題がラクトの耳にも入り彼は面倒臭い奴、重たい奴と言われることを気にしているようであった。
俺の言葉を聞いた彼は顔から火が出るかのように真っ赤にし、外出してきますと言い残して外へ出ていった。面倒だと上司に指摘されるのは腹が立つことだろう。ラクトは戻ってきた休憩が終わる3分前であった。何事もなかったかのようにいつもの澄ました顔に戻って入るが目元は赤い。
「悪かった。さっきのは言いすぎた」
返事はない。いじけてしまったラクトをなだめることは難しく結局仕事を終えても口を聞いてはくれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!