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 外に出ると太陽はとっくの間に沈んでおり月が顔を出していた。仕事を終え自宅へ帰る足は自然と早くなっていた。寂しく暗い夜から逃げようと思ったからではない。  別に職場の人間関係や業務内容が合わなくなったというわけではない。家に帰り玄関のドアを開けることが楽しみになっているからだ。過去の俺が知ったらきっと驚くだろう。けれども帰宅することが楽しみになっているのは事実だ。  今までなら睡眠をとるために帰っていたのだが最近ではそれ以外の目的ができたのだ。鍵を回しドアを開ける、この瞬間がこんなにも気持ちが昂るとは知らなかった。  玄関に入るとザーザーと水が流れる音が聞こえた。台所にいると思われる人物に声をかけるため俺はキッチンのある方へ進む。俺が帰ってきたことに気が付いたクルハは調理器具を洗っていた手を止め振り向いた。 「あ、ヒガタさんお帰りなさい」 「ああ、ただいま」  にこにこと笑う彼にぶっきらぼうな口調で返事をしたことが少し申し訳なく感じた。このやり取りももう何回も繰り返しているのだがいまだに違和感が拭えない。 「帰ってきたのなら呼んでくれてもよかったのに」 「邪魔したら悪いと思ったからな」  1人で暮らしていたころは職場以外では会話をする機会は少なかったが同居してからは話し相手ができ、家にいて陰鬱な気分になることが格段に減った。初めは他人と住むことはできるのかと思っていたのだが案外うまくいっている。  俺がクルハに同居を持ちかけたのは彼を一晩泊めてからのことだ。帰宅するとクルハの姿はなく机の上には手紙があった。一晩泊まらせてもらった礼と、鍵はドアについてあるポストに入れたとのことであった。   一応何かあったら連絡してこいと入ったものの連絡はなく、住居のことは解決したのかと気になった。クルハに連絡を取ったところ、例の空き巣に入られたことを理由にアパートを追い出されていたことが分かった。自宅に呼び出しどうして連絡をよこさなかったのか呆れながらこの2日間どうしていたのかと問いただした。 「1日目は住宅街やコンビニなど人がいそうな場所を探してじっとしていました。2日目は運良く安いホテルを見つけたので泊まることができました」 「3日目はどうするつもりだった?」 「1日目と同じで周辺をぶらぶらとするつもりでした。安くても毎日泊まることは金銭的に無理がありましたし」  何のために連絡先を交換したと思っているのだ、もっと人を頼れと叫びたくなったがぐっと堪えた。もしかすると迷惑になると思い1人で何とかしようと思ったという可能性もある。解決する前に人に頼ってほしかったものの早くに気が付けたのは幸運だった。  とりあえずしばらくは泊まっていけと言ったが、彼の性格的にまたしばらくすると迷惑になると思い出て行ってしまうのだろう。さて、どうすればいいのかと思ったときに思いついたのがルームシェアだ。突拍子もない考えであったが、当時はこれならいい返事をしてくれるだろうという根拠のない自信がなぜかあったのだ。  今は同居しているという事実から結果は言うまでもないだろう。彼は住居を探している、俺には空いている部屋があった。彼1人が増えたところで迷惑ではなかったのだ。  初めのうちはそんな迷惑はかけられないと断っていたが何回か説得を重ね、最後には迷惑かけても知りませんよ、などと訳が分からない発言をしたものの同居が決定した。もともと同居可能な部屋でこの物件を購入してよかったと初めて思った。念のためこのマンションの管理者に連絡を入れ許可ももらった。  
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