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「さて、もうすぐだな」  所長が俺だけに聞こえる小声で呟いた。慌てて会場の時計を見上げようとすると会場内にブザー音が鳴り響いた。本来ならばそれは舞台の開演時に流れるものでこんな時に流れてくるのはおかしい。何も知らない主催者たちは何事かと騒ぎ出した。 「動くな!」  前方にある左右の扉から同僚と警官の男たちがなだれ込んできた。会場にいた者たちはこれから何が起こるのか理解したようでここから逃げ出そうと一斉に扉へと走り出した。出入口はすでに同僚らが警官と共に封鎖し、押しのけて通ろうとする人々を次々に拘束していった。左隣にいた男にあんたも逃げねえと捕まるぞと忠告されたが彼らの仲間だとは思ってはいなかったのだろう。  親切に忠告してくれたのはありがたかったが俺は捕まえる側だ。持っていたスタンガンで気絶させ手首に手錠をかけた。 「ヒガタここは何とかなりそうだ。予定よりも早いが地下を見に行け」  振り返ると太った男の股間に蹴りを入れ気絶させ再起不能にした上司がいた。気絶している男に同情した。さぞかし痛いものであっただろう、見ているだけで背筋がぞわぞわとしてきた。  会場の外に出ると制服を着た警官たちが忙しそうに動き回っていた。すれ違う彼らに軽く会釈しながら地下にある物置を目指した。このオークションが行われているホールには舞台俳優やセットを地下から地上に上げる昇降機のような装置がある。目玉の商品は最後にこの装置からステージ上に登場するのだ。そのため人がいる可能性もゼロとはいえない。  このオークション会場には以前にスタッフとして潜入し内の様子を探っていた。そのため地下の存在は知っていた。地下に行く道は誰もいないせいか薄暗く何かが出そうな雰囲気だ。おまけにそれほど寒くはない季節のはずだが少し肌寒いように感じさっさと終わらせようと駆け足になっていた。
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