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「誰かいないか」  奥に向かって声をかけてみるが返答はない。ここに置いてあるのは盗品や輸入が禁止されている物ばかりであった。品物は証拠品となるため動かして傷をつけないよう気を付けながら奥へと進む。目玉の商品は最後の方で出されるため昇降機よりも離れた場所にあることが多い。  けれども見たところ価値のないものばかりであった。大きくて邪魔になるからという理由で別の場所に置かれているのかもしれない。まだ探していない奥の方が怪しいと考え奥へと進んだ。  俺の読みは当たっていた。目の前に布が被せられた直方体がある。おそらく檻なのだろう。これは人もしくは動物が囚われている可能性が高い。布はそのままの状態でおいと声をかけたが反応はない。血や泥で汚れた布切れを恐る恐る剥がす。  そこにいたのは黒い髪の人間であった。背を向けており表情は見えないが、呼吸をしていることはわかる。けれども、随分衰弱しているように見えた。男から入手した鍵はこの檻の鍵であったようで鍵穴にぴったりとはまった。 「おい聞こえるか、こちらの言葉がわかるなら何か反応してくれないか?」 「うぅ…… あっ……」 呼びかけに反応を示したため、意識はあるようなのだが衰弱しているようで会話をすることは難しそうだった。近づいてみると檻の中に誰かが入って来ているというのはわかるのはわかるのだろうか、意味をなさない音を発している。かなり衰弱しているように見えた。 「俺はお前を助けに来た。もう大丈夫だ。信頼できないとは思うが信じてくれ」  言葉は通じるはずだと信じ、顔が見える位置まで近づいてみた。遠目から見ただけでは手入れもされず伸ばしっぱなしの髪しか見えず性別の判断は難しかった。近づいたことでこの横たわる人物が男であることが分かった。  辛うじて薄汚れた半袖の服を着ているようだったが、ホールの下は客席と比べると寒い。汚れてしまったが、着ていた上着を青年に着せ救護を待つことにした。 「こちらヒガタ。1名発見した。衰弱しているため救護を頼む。場所は舞台の真下の地下だ」  持っていた通信機で救護班と連絡を取り手配した。 「ヒガタさんどこですか? 見てくださいこいつらこんな物を持っていましたよ。あれ、まさか逃げてしまいましたか?」 「逃げてはいない、手が離せないんだ。すまないがこっちに持ってきてくれないか」  もう一人を制圧したであろうラクトの声が響く。今いる檻の中からは姿は見えないが面白いものでも見つけたのだろう、彼の声は嬉しそうだ。きっとニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべながら報告しているのだろう。  日頃の彼の行動からか、何か良くないことを企んでいるような気がした。  檻の中にやってきたラクトは俺と傍にいる青年の様子を見ると何か言いたげな様子であったが、結局は何も言わず手に持っていた物体を投げてきた。  青年に当たりそうになったそれを掴む。危ないだろうと注意するがそっぽを向いてしまった。投げられたものを見るとそれは通信機であった。けれども、先ほど俺が使っていた支給された通信機とは違う形であった。ということはラクトと交戦していた男が持っていたものだろう。 「これで上の奴らとやり取りするものではないですか? 試しに今どんな状況か聞いてみます?」  ああそうしようと言い通信機のボタンを押した。
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