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カンカンと金属独特の高い音を鳴らしながら上へと上る。ちょうど階段の中間にある踊り場辺りで背後でモゾモゾと動き耳元でうぅーとうめき声が聞こえた。どうやらお目覚めのようだ。
なんだか寝起きの悪かった同僚の姿を思い出し俺は少し懐かしく感じた。
「おはよう。気分はどうだ? どこか体調が悪いとかはないか?」
「あ、あなたは一体誰ですか」
長い間話すということをしていなかったのだろう。その声は小さくかすれていた。小さな声でも警戒していることは十分伝わる。
「ああ、そうだった。俺はヒガタ、君を助けに来た。遅くなってすまない」
助け、と青年は小さくつぶやき困惑しているようだった。
「えっとヒガタさんは僕を連れてこれからどこに向かうのですか? また僕は売られてしまうのでしょうか」
どこか諦めたような口調であった。そんな風に見えたのかとヒガタの口から思わずため息が出る。それを怒らせてしまったと思ったのか青年は小さく震え上がるのがわかった。怖がらせる意図は全くなかったのだがこれは怯えさせてしまったなと反省する。
「言っただろう君を助けに来たと。まずは保護施設に行くことになっている。そのあとは元の国に送還されるかこの国で生活していくことになる。どちらを選んでも生活がしていけるまでの支援はある」
多分君の場合は通常よりも時間がかかりそうだ。まだ時間はあるからこれから考えていこう。となるべく優しく話しかけると彼は安心したのかそうですかと言い、また意識を失った。先程とは違い穏やかな寝息を立て眠っているようだで俺も安心するのだった。
地上に出て彼らがいるホールに行くと、救護班とミルトそれにラクトが何か話し合っているのを目撃した。
「あ、ヒガタ先輩!聞いてくださいっす」
俺の存在に気が付いたミルトが走ってくる。その様子は帰えってきた主人を出迎える大型犬のように見えた。
「ミルト、それにラクトも二人とも状況は変わりないか?」
そう言ったものの、2人はどこか疲れているようで何かあったようだ。ラクトに関してはいつもの嫌味やミルトの口癖を指摘しないくらい疲弊しきっているように見える。それくらい厄介な出来事があったのだろうかと脳内で状況を整理しようとしているとミルトが口を開く。
「さっきまでレヴィンさんをなだめるのに必死だったす。急にやっぱり保護施設には行かないって言い始めて」
「途中で暴れ始め救護班を病院送りにし、ミルトには勝負しろと言い、どこにあんな体力が残っていたのか……。あなたがのんびりしている間、こちらは大変でしたよ」
苛立ちからかつま先で地面をたたきながらラクトは言う。こちらものんびりしていたわけではないのだがと反論しようと考えたものの、ここまで苛立っていることを隠さないラクトを見ていると反論しづらかった。
「最後は俺が注意を引いている間にラクトさんがスタンガンで気絶させたっす」
どうやら救援がなかなか来なかったのはあの兵士が大暴れしていたせいのようだと納得する。
「そうだったのかそれは大変だったな。それで今動ける救護班はいるか、地下で1名発見したから容体を見てほしいのだが」
それを聞いた救護班らしき人物が担架を持ちがヒガタの元へとやってきた。背中にいる彼を担架に乗せると遠くの方へ行ってしまった。
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