『喫茶カッツェ』へようこそ

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その喫茶店には、1匹の猫がいる。 オフィス街に居を構えるその喫茶店の名前は『喫茶カッツェ』。 店長1人で切り盛りする、4つのカウンター席と2人掛けのテーブル席が3つだけの、小さな店。 猫がいるのは決まってカウンター席の窓側。茶トラの、明らかに雑種の和猫。成猫というより年寄りに見えるその雄猫は、ある理由からもはや店の看板となっていた。猫に会うために店に来る客も少なくない。 「違うの、勝手にね、やってくるのよ。開店時間に合わせて。」 飼い猫かという質問をされるたび、店長はそう答えている。だからなのか、その猫には名前が無い。客も店長も好きなように呼び、猫のほうも、反応したりしなかったりする。 「まぁ、ウチの1番の常連さんってところね。」 そう、店長は笑う。 そんな店の一番奥の席で俺、上林皐月はノートパソコンを開いていた。画面には大学の講義のレポート。この店で、コーヒーを飲みながら丸一日かけてレポートをまとめるのが週末の日課…週課?になっている。他の客の邪魔にならないよう一番奥の席で、昼前から夕飯時まで居座り、様々な客が出入りするのを眺めながらの作業。特段聞き耳を立てなくても、狭い店内にいれば自然と会話の内容が聞こえてくる。実はその人間模様が、面白いのだ。
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