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恋愛シュミレーションゲームにてイケメンたちと恋するヒロインに立ちはだかり、あらゆる悪手で嫌がらせをしてくる我が儘な悪役令嬢、に生まれ変わった前世腐男子の俺は、このままでは破滅御用達の未来を変えるべく自分なりに奮闘した訳だ。
ある時は婚約者との婚約破棄の為、またある時は義弟を立派に育てる為、などと努め一番求めてた攻略対象同士のカップリング成立は成果は得られなかったが俺の描いたこの世に1つだけの同人漫画は同志のメイドには大変好評だった。
将来は世界で唯一の同人作家、ってのも良いかもなと思ったが、既に義弟の婚約者候補のアナちゃんの妄想小説が世界的売上を叩いてるわ。出遅れた。
「お嬢様」
「あ、ありがとう」
執事がいつものように髪型を整えてくれたようだ、昨日お気に入りの黒のリボンが切れて使い物にならなくなったが姿見で確認したところ同じ黒のリボンにホッとする。
何だか千切れたリボンを見て、執事を失ったような喪失感に見舞われたのは執事には黙っておこう。頭の心配をされそうだ。
それに、ネックレスの時もだが、自分で選ぶ身に付けるものの選択理由が、自分の目の色に似てるだとか、執事の髪の色に似てるからだとか、そう言う子供っぽい理由は他人に知られたくない訳で。
「よし、作戦を確認するぞ」
「はい」
「まず、婚約者ルートは俺をとことん嫌いヒロインに優しくなる。婚約者が俺を嫌いになるとすれば?」
「お嬢様が我が儘で自分勝手で高飛車で他の女を牽制し殿下に媚び甘える哀れなお姿です」
「その無礼暴言に目を瞑るの今だけだからな? つまりだ、絵に描いたような悪役令嬢になれば婚約者は俺に愛想を尽かし、以前から呈示したままの婚約破棄をしてヒロインの優しさに懐柔──婚約者は可愛い彼女ゲット、俺は自由ゲットで互いに利のある作戦だ」
「ちなみに、お嬢様はその『悪役令嬢』とやらを演技出来ますか?」
おいおい、俺を誰だと思ってるんだ、この執事は?
10年仕えてどこ見てたんだ、シャロンこそ悪役令嬢に冠した存在。水かけ、嫌み罵倒、見下し、高笑いエトセトラ、得意に決まってんだろ。
「記憶が戻ってから貴族令嬢として義弟の見本になるように徹してたが、もう義弟は立派にすくすく育ったからな、シャロンになれば良いんだろ、出来ますとも!」
「左様でございましたか」
そんな大見得を切ったが、性格的にシャロンみたいに他人に厳しく出来るか難しい。
でも出来ませんじゃ駄目なのだ、俺が欲しいのは婚約者のない自由なセカンドライフ。
やってやろうじゃねーの、と馬車に乗り込んだのだった。
「シャロン、庭園までエスコートしよう」
馬車を降りて数分で屋敷に帰りたい気持ちにさせた婚約者の登場に、俺はバレないように斜め後ろの執事を盗み見た。
奴は小さく頷く。
もう俺の悪役令嬢タイムが始まってると言うことだ。
「シャロン?」
怪訝そうに俺を呼ぶ婚約者に俯いた。
とりあえず深呼吸、そして悪役令嬢としてシャロンが婚約者に振る舞ってた態度、と言えばだ。
もう1度深呼吸をし、差し出された手を取って笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、エドウィン様っ」
語尾を甘くしてみたが、もう駄目だ拷問だ。
見ろ、婚約者が目を丸くしてる……これは、これは成功なんじゃねーのか!?
シャロン再臨記念日の幕開けに相応しい、よしもうこうなったら自棄だ、引き返せねーってやつだ。
今の俺は、『大好きな婚約者のエドウィンにエスコートしてもらえて嬉しくてハッピーな恋する乙女全開のシャロン』なのだ、クソ長え。
外面は嬉しそうに笑ってても心はスン……と冷めていく感覚、内外温度差に風邪引くわこんなん。
普段より少しだけすり寄れば、婚約者は目を丸くしたまま俺を見、それから表情に変化が訪れようとしてるじゃねーか!
来るか!? 蔑んだ視線!
「……今日は、良い日になりそうだな」
望んでた表情と天と地ほどの差があった。
何だその、少女漫画の見開きを堂々と陣取り花をバックにここでしか使い道を見出だせないキラキラエフェクトをふんだんに使いまくった王子スマイルは?
ハッ、いやこいつ王子だった。いやそうではなく?
俺を巻き込むようなブワッとした2人だけの世界みたいな空気感何これー?
俺もしかしてリアルタイムでエクラブのエドウィンルート攻略中でしたか? と画面を探すがどこもかしこも3次元。
しかし、しかしだ、ここでゲロ甘空間に気分を害してしまえば、俺が悪役令嬢として無能となり婚約破棄と言う自由を手に入れることが難しくなる。
耐えろ、俺なら出来る!
「本日はご一緒出来ればと願っておりました、エドウィン様さえよろしければ」
「ああ、無礼講とは耳にしているが、私もお前も共に初参加だ。催しに慣れぬ者同士、それにお前とならば退屈せずに済む。私から申し出ようとしていたが先を越され、いや、同じ気持ちであることに嬉しく思う」
「エドウィン様……」
どう!?
俺めっちゃ婚約者大好きオーラ体現出来てんじゃねーの!?
想像より甘い言動に今すぐ逃げたい気持ちを殺してれば、ようやく周囲の声が聞こえてきた。
「エドウィン殿下とシャロン様……何てお似合いなのかしら」
「それにあんなに相思相愛のお二人を見せ付けられたらお邪魔も出来ないわ……」
「この国の将来も安泰だな」
こ、これは……!
いや落ち着け、前向きに考えろ、そうこれは他の令嬢への牽制!
そうだよな、と執事を振り返れば感情を屋敷に置いてきたのかな、無表情でこっちを見てる。主に向ける顔しろよ。
行くぞ、とエスコートされ、俺は婚約者にくっついた状態で庭園に行くことになってしまった。
まだこれ序章なの?
既読スキップしようぜ。
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