因循苟且

2/2

232人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 放課後の図書室の面子は毎回大抵同じだった。  進学クラスの生徒たちか、もしくは本の虫たち。  その中にはもちろん清風も含まれており、掲示板に貼られた自分が書いたリクエストカードへ、予約した本が入荷しましたと書かれたお知らせを確認すると、慣れた様子で清風は司書カウンターへと向かった。 「明月(あきづき)くん、お待たせ。予約してた本、入荷したわよ」    常連の清風が確認のため生徒証を提示するより早く、司書の女性は明るく笑いかけると、奥の本棚から新しく入荷して来た本を引っ張り出して来た。 「これで間違いない?」と、彼女は清風に表紙を確認させた。 「はい。ありがとうございます」 「誰もまだ触れていない、新しい本を一番最初に読むのってドキドキするわよね、って明月くんにはもうそういうのないか?」 「そんな事ないです。最初の1ページ目を捲るのは今でも好きです」  処世術のひとつみたいに軽く微笑み、清風は司書に同調する。司書は微笑みを崩す事なく本と貸出カードのパーコードを通し、2週間後の返却日を伝えると「また感想聞かせてね」といつものお決まりのセリフで締めくくった。  中学時代であれば、閉館の時間まで図書室に居座り、ひたすらに本を読んでいた清風だったが、天文部に入ったお陰でその時間はすっかりなくなってしまった。  まだ夜間の活動許可が下りる時期ではないため、部活動の内容は休憩時間の延長線みたいな不毛な世間話か、地学オリンピックの過去問を解くかの大抵この二択だ。  もちろん自分の親友は地学なんかに興味はないため、前者の不毛な世間話、もしくは宿題を教えてと言ってくるかのどちらかだろう。  週末にあんな事があった後、初めて顔を見る月曜の放課後が清風にはひどく重苦しかった。あの朝のことを思い出すだけで恥ずかしくて、思わず廊下で発狂したくなるほどだった。  その上、親友は変わってしまった自分に対しての本音をあんな寂しそうに呟いた。それに対して自分はまた、そっけない態度を取って明らかに傷付てしまった。 「何一つ傷付けたくないのに……なんで、俺は……」  誰もいない廊下で一人、清風は深くため息をつくと項垂れ、頭を抱えた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

232人が本棚に入れています
本棚に追加