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電気が点いていると言ってもイマイチ薄暗い学校の廊下は、志翠の恐怖心をただただ大きくさせた。
「着いてこなくて大丈夫だから、屋上にいろって」
「無理無理っ、今から一人で戻るの無理!」
「──お前は……」なんて心強い相棒なんだと清風は目を細める。そこへいきなり志翠のポケットから着信音が夜の廊下へ響き渡り、志翠は思わずおかしな声をあげた。
「しっし、心臓が止まるかと……、せ、先輩からだ……」
志翠はすでに何歳か老け込んだような顔つきで応答をフリックする。
「もしもし? なんですか、もうビックリさせないでくださいよ〜」
「もうビックリしてんのかよ、ちゃんとAEDの場所覚えてるか?」
「縁起でもないこと言わないでくださいっ、なんか用ですかっ」
「いや、お前ら儀式の話の前にサッサと行っちゃったからさ」
「儀式? いや、それ絶対聞きたくないやつですよね、必要ないです。切ります、切りまーす」
「待て待て待て待て! スピーカーにして明月にも聞こえるようにしろ」
志翠は至極不服ではあったが、一応相手は先輩なのでしぶしぶ言う通りにした。
「何ですか?」と清風は相変わらずの無愛想な声で返事をする。
「話す前からなんか不機嫌なのな、お前……まあいいや。天文部にはもう一つの恒例があってな、それを伝えそびれたと思ってさ」
「もう一つの恒例?」と二人は思わず声を揃えた。
「そう、旧校舎の一階、一番突き当たりにある第二音楽室。そこに目印を置いてきたからそれを行った証に持って帰ってくること」
「嫌ですー、じゃ失礼しますー」
「おいっ、ノリ悪りぃぞっ、明嵜っ」
「だってやですもん! 行きたくないです!」
「いいよ、俺が行くから」
「清風はなんでそんな素直なの? こんなパワハラに従うことないよ!」
「そのパワーワードやめろ、レクリエーションの一環だと思ってもう少し気楽にお願いできますかねぇ?」
「目印のことは了解しました。用件はそれだけですか?」
「用件はな、あとは取りに行くなら明月一人の方が良いかもしれないってアドバイス」
「なにそれ、先輩、いじめ?」
「明嵜、言葉のチョイスまじもう少し考えて? 俺へのダメージさっきからキツい……じゃなくて、これは本当にアドバイス」
「ひとりで行くことが? どうして?」
「あそこの音楽室には事故で死んだ子供の霊がずっと成仏できずにいるって噂でな。あそこに肝試ししに入ったカップルや友人たちは必ず仲違いするって話で有名なんだよ」
「なにそれ! 幽霊出るなんて聞いてないっ、先輩の意地悪っ、鬼っ、悪魔っ、非モテ男っ」
「最後の関係なくねぇ?! お前どさくさ紛れて悪口追加してんじゃねぇぞっ」
「なんなんです、その都市伝説みたいな科学的根拠のない話」
「もう何でお前ら片方は小学生で、片方は極端にノリ最悪なの? 本当に同い年かよ、もう少し平均してくれよ」
「それは俺も思います」と志翠が無駄に自己分析に長けた返事をよこす。
「どっちにしろ、音楽室へは一人で行けば問題ないってことでしょう? 仲違いってことは相手がいないと成立しない話ですし」
「……冷静だよな、明月は。お前なんでそんな小学生と親友してられんの?」
「先輩! 悪口返ししないでください、そして清風もなんでだろうって首傾げるのやめろ!」
電話の向こうでは先輩たちが大爆笑していて「じゃーなー」と一方的に通話はそこで切られた。
シン、と廊下が突然深い静寂に包まれ、志翠はそれだけで心細さに拍車が掛かった。それが顔に出ていたらしく、清風が俯き加減の頭に手を置く。
「さっさと行って、さっさと帰ろう」
「……うん」
「音楽室には俺だけで行くから、心配すんな」
「それって俺は一人で待つってことだよな? それもやなんだけどぉ〜」
「入り口で待てばいいだろ、姿が見えなくなるわけじゃないんだし」
「そう……だな」
「ホラ、さっさとしろ」と清風は志翠の心もとない肩を軽く叩いて、これ以上暗いことは考えさせないようにした。
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